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早逝した父

『ご注意』
本日は目に見えないもの、亡くなった方の霊のお話です。
目に見えないものの話が苦手な方はすっ飛ばしてください。


私の父は、私が大学生の時に突然死した。解剖はしてもらわなかったのだが、医師の推測によれば、おおむね心筋梗塞であろうということだった。49歳だった。当時22歳だった私は49歳が若いかどうかなんて、全くわからなかったが、周りの大人たちが「まだ若いのに」と口々にいうのでそうなんだろうなというくらいに捉えていた。しかし自分が44歳になり、夫が49歳になった今、当時の周りの反応をようやく身に染みて理解できるようになった。今夫が突然死したら、本当に天地がひっくり返るような衝撃を受けるし、意味がわからないくらい混乱すると思う。当時の母を私は全く理解できていなかったと思うが、今思えば母は強かったし、強くならざるを得なかったし、それに寄り添えなかった自分は申し訳なかったなとも思う。とにかく私も自分のことで精一杯だったし、母に寄りかかられても大丈夫なほどの余裕は全くなかった。私がもっと強かったら、母を支えられたのかもしれないが、泥のようにしがみ付いてくる母に私は精神を病んでしまい、結果病院送りとなった。病院の先生が放った言葉は「お母さんの方が精神科が必要なんじゃないかしら。とにかくあなたはお母さんからまず離れて自分を回復させないと始まらない。」というものだった。

私は当時、霊的なものや目に見えないものから遠く離れていたため、あまり信じてはいなかったし、かといって強く拒否もしていなかったのだが、父が亡くなった後、夢に父が出てきたことから、そういう世界もあるかもなと思うことになった。

夢に出てきた父は、赤いセーターのようなスエットのような、ゆったりしたカジュアルなトップスにシンプルなチノパンのようなものを着ていた。私はそれを着ていた父が記憶にないのだが、後から母に聞けば、それは休日の父のお気に入りの服装だったとか。そして父は赤い乗用車に乗って私を迎えにきて、夢の中でしばしドライブをしながら会話した。運転しながら辛気臭くならないように努めて明るく話す父。助手席の私はただその話を聞いていた。会話の中で最後に勤めていた会社の勤続年数を父が言った。会社員に絶対になりそうもない私を心配していたというザ・昭和な考えも持っていた父は、その勤続年数を自慢げに話していた。私は「ふーん」としか返せなかったが、その年数についても後から母に言ってみれば、ぴたりと正解していた。私の記憶にある父が、赤い車に乗っていたことなんて無かった。ずっと社用車で、車の側面には勤務先の名前が貼り付けられ、大体白かシルバーグレーかという、ごくありふれた車体の色の車に乗っている記憶しかない。これもまた母の話によれば、私が生まれる前、父は真っ赤な車に乗っていて、それをとても大切にしていたのだとか。子供が産まれて車を家族で乗れて荷物もたくさん積めるものに買い替えて、そのあとは社用車を乗っていたという。夢の中で最後に私に会いにきた父は、父が最も好きだった服を着て、最も好きだった車に乗って登場し、楽しい会話をしに来たことになる。お説教くさいことは全く言わず、ただウキウキと楽しそうに車を運転していた。そういう記憶を私に残したかったのだろうか。

この夢がきっかけとなり、人の意識というものに少し興味がでた私だったが、先にも書いたようにその後精神を病んでしまったこともあってか、目には見えないことについて考える余裕がなく時を過ごしていた。

父の意識の残骸のような何かについて、改めて考えるきっかけになったのは、意外なことについ最近である。誕生日を前にした私は、突然バスの中で父からのメッセージを電報のように受け取った。それは言葉にならないような、大きな愛の塊のようなもので、無理やり日本語に翻訳するならば「よくここまで大きくなったね」みたいなニュアンスだった。具体的な言葉として降ってきたわけではなく、意識の塊としてドーンと届けられたので、なんとも説明が難しい。そして即座に理解したのは、父がその時に隣にやってきたのではなく、この年齢になった未来の私へのメッセージを時限爆弾のように仕掛けていったのだということだった。それは私がその年になった時、ある条件が揃った時に開くメッセージボックスだった。なぜ今なのかとしばらく考えたが、思い当たるのは父が癌と診断された年齢に私が到達したことだった。全てを理解しきれないけれど、父は父の考えがあってその年齢の私へのメッセージを残したかったのだろう。

時間は存在しないという理論について考えるようになったのはここ数年のことなのだが、その理論について理解しようと努めた結果、どうにか未来も過去も現在も人間が思うような時系列で存在しているわけではないというところまで辿り着いた。人智を超えたところに行ってしまった父にとって、私へのタイマー付きメッセージを残すことなど容易だったのだろう。サプライズが大好きだった父らしいなとも思う。

時限爆弾メッセージは一方通行なので、父に返信をすることはできない。私の条件が揃った時にパカッと開いて降ってきたその愛の塊は、ただありがとうと思って受け取ればいいんだよ、ということも教えてくれている気がした。それにしても時限爆弾じゃちょっと父が「あんまりな言いようだな」と言いそうなので、「予約投稿」にした方がいいだろうか。直感的にはゲームの中でこの場所でこのアイテムを持ってここを踏んだらポンと隠しコマンドが出ますよ、というイメージなのだが。

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MariKusu
温かいサポートに感謝いたします。身近な人に「一般的な考えではない」と言われても自分の心を信じられるようになりたくて書き続けている気がします。文章がお互いの前進する勇気になれば嬉しいです。