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受験生の親に求めるもの
大学受験のとき、二次試験に演奏の実技試験が含まれていた私は、初日の学科試験、翌日の実技試験と二日間にわたる試験を受けた。寒い冬に行われる実技試験、手を冷やさないように入念に注意しながら数日前から東京入りをして、ピアノの練習室を確保し、それでも自宅で練習するような充分な時間とはいえない1時間から2時間程度の練習時間でなんとか気持ちを保っていた。実技試験がある受験生は皆、専門科は違えど似たような状況にあるだろう。
私の受験体験で最も良かったことは、受験本番の数日前から親と離れられていたことだ。
東京のホテルで1人集中する。当時の演奏の先生も東京入りして付き添っては来れていたが、親ではないので、もちろんホテルの部屋は別だし、練習時間以外や食事時以外は別行動にしていた。先生も、淡々とした厳しくも静かな先生だったので、こういう土壇場に慌てることもなく、焦ったオーラを感じることもなく、落ち着いて過ごすことができた。
何が言いたいかといえば、受験本番の直前は、本人をなるべく放っておいてほしいということだ。
やれ風邪に注意だ、栄養がどうだと騒ぎ立てることなく、静かに淡々と日常の時間を流してほしい。それが最も嬉しい応援方法だと私は感じる。
友人たちの家の様子を見るにギャンギャンと大騒ぎする親が多いように思う。本人からしたら「頑張ってね」と言われてももうすでにギリギリまで頑張っているわけであり、「風邪引かないように」と言われてもそんなことは受験生誰もが同じように願っているわけであり、「忘れ物は?」と言われても何度も確認済なわけでその一言が頭に投げ込まれることで整理していた思考が邪魔され却って忘れ物をすることになったりするわけなのである。親の気持ちをありがたく感謝して受け止めよと言われても、人生を賭けているほどの疲労困憊でここまで辿り着いた18歳くらいの子供たちに、受験直前になって親の発言に配慮してあげられる余裕なんてあるわけがない。
私は親になることが今世は無しにしようと幼稚園くらいからなぜか強く願って生きてきた人なので、結局「親になったらわかるよ」と言われて仕舞えばそれまでなのだが、自分が受験生本人だった時の気持ちはそれなりに覚えているので、当事者目線として求めていることを伝えるしかないのだけれど。
慌てず騒がず、いつも通りに。
高校生にもなれば、自分のリズムは自分が一番よく知っているはずだ。それを親の喚きによって乱してしまうと、せっかく本人が最も良い状態で試験に臨もうとしているのに、「親の騒ぎを適当にうまく往なしながらブロックして、自分の心の平穏を保つ」という余計なエネルギーを消耗することになる。
冷静に、いつもと同じように、しかし自分の心の奥底から湧き起こる通常よりも少しだけ強い何かを密かに燃やして挑む。それが最も最高のものを発揮できる状況だと私は思う。
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