探索型リサーチの価値の伝え方
デザイン会社Goodpatchでデザインリサーチャーをしている村上まり子です。
Goodpatchのデザインリサーチでは探索型リサーチに主軸を置いています。今回はその探索型リサーチをGoodpatchでクライアントワークとして行う上でよくいろんな人から問われる「探索型リサーチってなんで大事なの?」という問いにGoodpatchのデザインリサーチャーたちが答えようと色々と試行錯誤している過程を共有させてください。
この記事はResearch Advent Calendar 2023の21日目の記事です。
なぜこの記事を書こうと思ったの?
Goodpatchでは現在3名のデザインリサーチャーの組織に所属していて、主に探索型リサーチのプロジェクトをメインにクライアントワークを行なっています。
私たちは探索型リサーチはビジネスの発展のためにもめちゃくちゃ重要であると信じていますし、その価値を疑ったことがないのですが、その価値を言語化してうまく伝えることがなんとも難しい。
チームを組成し、自分たちで営業やマーケティングのやり方を社内のいろんな方に協力してもらいつつ検討している中、当たり前ですが毎回「で、探索型リサーチの価値って具体的になんなの?なんて伝えたらいいの?」という問いを投げかけられます。価値をみなさんに理解してもらうのには、毎回結構な時間がかかりました。
立ち上げたばかりのチームなので、実際に探索型リサーチのプロジェクトができるように営業活動として商談の場にも、社内の営業担当の方にお願いして同席させてもらったりしています。その際にもやはり商談相手の方から言われるのは「定性調査ってほんの一部の人の話を聞くだけですよね?本当にやる意味あるんですかね」「Goodpatchに依頼したらこれまでにない、素晴らしいインサイトが出てくるんですか?」「御社の行うリサーチの独自性は?」という意思決定においてはまぁ必要ですよねという問いを投げかけられます。
正直今時点でも正しい回答には辿り着けていないのですが、これまでにいろんな方や世になるナレッジにもらったヒントをまとめてみたいと思います。もしこれを読んでいただいた方でもっと良い伝え方があるよ!って方はぜひ教えてください。
これまで検討した探索型リサーチの価値の話
リサーチとは手持ちのレゴブロックを増やすことが価値
まずこれはService Design ShowというYoutubeの動画の説明からの例なのですが、ここでは「デザインリサーチの価値をクライアントに伝える方法」を説明してくれています。この動画で言われているデザインリサーチは探索型リサーチとほぼ同義の使われ方をしていたので、探索型リサーチの価値の説明の一例として書かせてもらいます。
動画の中では、多くのクライアントにとってのリサーチとデザインリサーチャーにとってのリサーチの意味が異なるというのがまず重要な前提としてあると説明されています。一般的にクライアントが考えるリサーチとは答えをくれるものですが、デザインにおけるリサーチは「答えるべき問い」を見つけるためのものというのが大きな違いとして挙げられます。ここについては多くの方にとってリサーチ=検証型リサーチというバイアスがあるということなんでしょうか。確かにそうなのかもしれないと思いました。「御社にリサーチを依頼したらすばらしいインサイトが出てくるんですよね?」といった類の質問はそういった考え方からくるものなのかもしれません。
この動画の中ではレゴを使った事例を説明しているのですが、「デザインリサーチとは探索の一環であって、レゴのお城を作る前にパーツとなるレゴのブロックを見つける作業である。」と説明しています。レゴブロックがより多く、よりバラエティーに富んでいるほどおもしろいお城を建てる機会が広がるというふうに説明されています。ここで強調されているのは、デザインリサーチとは正解を探すのではなく、機会を広げる行いであるということです。
リサーチから得られるものの面白さユニークさが価値
お次は、伝え方に悩んでいるなら伝え方のプロに相談しよう!ということで、社内のコピーライターの方に相談してみた際の例です。
熟練のコピーライターの方がメンバーの考える探索型リサーチに関する断片的な価値を丁寧にヒアリングしてくださり、最終的にこの方向性がいいんじゃない?ということで、リサーチから得られるユニークさ、おもしろさ、たのしさをベネフィットに変換するのはどうかと提案してくださりました。
その結果、例えば「顧客より顧客を知ると、仮説がおもしろくなる。」というコンセプトで伝えるのはどうかと提案いただきました。そこには顧客を深く理解するというエッセンスと、あくまでも仮説の選択肢を増やすという探索型リサーチの特徴を的確に汲んでくださっています。
チームのメンバーはいちいち難しい言葉で考えすぎていたのでこのコンセプトを考えてもらえたことは、広告などを打つ際にとても有益でした。
リサーチプロセスを辿って顧客の世界にどっぷり浸かることが価値
ある時、社内の方のつながりで文化人類学に興味のある経営コンサルタントの方にGoodpatchのデザインリサーチの取り組みをご紹介する機会があり、その際に価値の伝え方に悩んでいることを相談させてもらった結果、新しい考え方も提示していただけました。
その際いただいたアドバイスとしては、プロジェクトのプロセスなどを話す際のGoodpatchのメンバーがとても生き生きしているので、そのプロセスを一緒に体験することに価値があるのではないか?ということでした。元々リサーチのレポートを出すことがゴールではないということは社内のメンバーでも考えていましたが、プロセスそのものを価値として伝えるのは目から鱗でした。
つまり、探索型リサーチをプロジェクトとして体験するということは、顧客やステークホルダーの一次情報に触れたり、顧客の実際の環境にどっぷりと浸かるように設計されたプロセスを辿れるので、その後にその担当者が真の顧客視点をもって顧客の求める価値を語れるようになるということが一つの価値なのではないかということです。
確かに弊社に依頼してくるクライアントは検討しているサービスを顧客が本当に使いたいと思ってくれるのか自信が持てないと言う類のご相談が多いため、一次情報にどっぷり浸かるそのプロセスを体験すること自体が自信の根拠として新たな武器になるのかもしれないと気付かされました。
リサーチ自体が価値ではない
もう一つ社内で検討していたのは、リサーチという言葉自体が多少バイアスをもって理解されてしまっているのでその認識を変えることが難しいのではないかということでした。
そこでリサーチ重要性を説得するよりも、「顧客ニーズを汲んだ新規事業を検討する」という最終的にリサーチを通じて達成される目的を実施することを提示しつつ、その内訳のプロセスとしては探索型リサーチが組み込まれているという方が価値としては理解されやすいのではないかと考えました。
この説明自体はアリといえばアリなのですが、新規事業検討自体も独自性をアピールすることが難しい領域ではあるので、結局なんでこの顧客理解に重点を置いたやり方がいいんだっけ?という迷路に戻ってきてしまうという課題がありました。
独自性の説明の難しさ
少し余談にはなってしまいますが、探索型リサーチはそれ自体の価値の説明も難しいのですが、特定の企業で提供する探索型リサーチ支援サービスの独自性の説明もなかなか難しいです。
結局職人技なんじゃないかなということを社内では考えていて、同僚の米田さんが「例えば靴職人ってどうやって自分の価値を伝えているのかな?」という問いを投げてくれたのですが、結局結果をみてそのレピュテーションからの口コミなのかな?という結論に至りました。探索型リサーチでいうとその事例と成果が伴わないと、価値として認識してもらえないのではないかということもあり、今ではコツコツと実績と事例をためている状態です。
おわりに
結論としてどの説明の仕方がベスト!という解には辿り着けておらず。
もしこんな説明の仕方がいいんじゃないかなというアイディアがあれば、ぜひぜひ教えてください!
Research Advent Calendar 2023には他にもすばらしい記事がたくさんあるのでぜひ読んでみてください。