はじっこ
はじっこを見つけた
はじっこを見つけたなんて
たいへんだ
わたしははじっこがあそこにある(いる)のを知っているのを誰にも悟られぬようふるまった
はじっこは言った
わたしをつかんでクルクル巻いてごらんなさい
世界はどんどん巻き取られて
はじからどんどん消えていきますよ
わたしも消えるの?
どう思いますか?
あなたはこの世界に属していますか?
それとも?
風のいたずらではじっこがあおられ丸まりはじめぬよう、わたしはダンボールや板を組み合わせて風よけを作り、虫に食べられないよう、地面にシートを二重に敷いて、屋根にはおばあちゃんの傘の生地を切り抜いてかぶせた
はじっこは(あ、は、は)と笑い、
世界には、すきまってものがあるんですよ
と言って屋根をすり抜けた
はじっこは眠るときにすこしじぶんをくるんと丸める癖がある
そのときわたしはすこし消える
立ち止まってこっちを見ていた猫のしっぽもすこし消えていた
まばたきしてるとき
じぶんが消えていないと信じているように
はじっこが眠りわたしがすこし消えていても
じぶんは消えないと思っていれば
わたしはそれを気のせいだと思えるのだろう
はじっこが丸まってしまえば消えてしまうわたしなのに、はじっこが丸まってしまうことなどない、と信じ込んでしまうことが、わりと簡単にでき、世界も巻き取られることはないと割り切って、自転車に乗り、階段を一段とばしでのぼり、スパゲティを食べ、親とけんかし、爪を切り、ラジオの話を友達とし、クラリネットの練習とテストの勉強をし、つまりはこれまでどおり、日常を暮らした
そのうち、はじっこにも会いに行かなくなり、はじっこのことを気にかけなくなった
はじっこがあそこにいなくなったからって、はじっこが消えたわけじゃない。誰かに見つかって、いまにも巻かれようとしているわけじゃない。移動しただけ。そういうことにして。わたしは蓋をしたのだ
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