四人のおばあさん

日当たりのよい椅子に四人のおばあさんが腰かけて編み物をしている
風が吹いてどんぐりがポタポタポタポタと落ちた

「落っこちるって、どうして上から下へ、落っこちるのかしらねえ」

と右端のおばあさんが青色の毛糸を編む手を止める

「ずっと昔から、毎日まいにち、そうよ」

と右から三番目のおばあさんが、黄色の毛糸を編む手を休めず、顔も上げずに言う

「わたしのいたところでは違ったのよ、ぷわぷわ浮かんでいるのよ、わたしも含めてね」

左端のおばあさんが桃色の編み目を数え直しながら言う

「そりゃあ変だわね」

と黄色のおばあさん

「変だって思わなかったの 生まれたときからそうだったんだもの」

と桃色のおばあさん

「このごろ、あんまり妙なことをいうと裁判にかけられるって言うよ」

と右から二番目のおばあさんが灰色の毛糸玉をつくりながらつぶやく

「雲って、どうして、浮かんでいるのかしらねえ」

と空を見つめて青色のおばあさんが言う
青色の毛糸玉が椅子の下へ落ちてころころ転がってゆく

「どうして、わたしたちは、こうやって椅子にくっついていられるのかしらねえ」

と桃色のおばあさんが言う

「今朝、ビスケット焼いてきたから食べようか」

黄色のおばあさんが、かばんから琺瑯の入れものを出して蓋を開ける

青色の毛糸玉を追いかけていった灰色のおばあさんが、毛糸玉とどんぐりを拾って戻ってきて、どんぐりを配る

片手でビスケットを食べ、もう片方の手のひらにどんぐりを眺める四人のおばあさん 

鳩が近づいてくる

空には雲がぷかぷか

さしあたり、椅子も毛糸玉もかばんもどんぐりも蟻も誰も浮かんでいない、日当たりのよいある場所のこと

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