腰掛け
なんとね、わたし、気がついたんだが、耳の穴の入り口の脇にね、腰掛けがあるんだよ。ここ。ね、腰掛けあるでしょう。今まで生きてきてね、ぜんぜん気がつかなかった。耳は耳だと思ってね、ろくに見てなかったんだな。でも、腰掛け、あるんだ。それでね、今朝さっそくね、少し早起きして座ってみたら、これが案外いいもんでね。一旦立ちあがってコーヒーいれて戻ってね、座ってね、また立ちあがって、読み途中の本持ってきてまた座ったりね、空気もなんだかいつもより澄んでいるような気さえしてね、光の粒をつかめるようだと思ったりね。そのうち腹が減ってきて、いまここへ来たってわけ。今日もいい香りしてるね。パンとスープとコーヒーにします。腰掛けに座って食べようかな、今日は。
そう言って彼は耳を指した。
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