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4年分の夫の気持ち|240713

『1122』をアマプラで観ている途中、スマホの上部に通知がきて、もうすぐ雨が降ると天気アプリが教えてくれた。少し冷めた玄米茶を飲んでから立ち上がり、ベランダに干している洗濯物を取り込む。

紺色のワンピース、白いブラウス、ストッキング、ワイヤー入りの下着。ここにあるのは、わたしが会社に出社する日に身に着けるものばかり。子どもたちの衣服を含むほとんどは、洗濯乾燥機で一晩で仕上がる。8月に入ったら(あるいはその後も)生活の変化に応じて、洗濯物の種類もやりかたも変わるんだろう。

クローゼットにワンピースをかけながら、思い出していた。2時間近く夫と話した、あの静かな午後のこと。感じたことがあまりにも多すぎて、一週間近く経つのにまだ何も言葉にできていない。消化できていない。

あの日、会議が終わって飲み物を取りにリビングへ行ったら、同じく在宅勤務で休憩中の夫がいた。
「ちょっと話したいことがあるんだけど。今度時間いいかな」
つよいこグラスに麦茶を注ぎながら声をかけると、「今いいよ」と言われて焦る。さすがに、夫と話したあとに仕事を冷静に続けられる自信がない。
「あー、ごめん。今日は仕事が詰まっていて。明日の夜でもいい?」
そう言って自分の部屋に戻った。ゲーミングチェアに座って、会社のPCを動かす。

いや待てよ。

あと数週間しかない。子どもがいる時間は話せないから、在宅勤務の日中か夜しかない。夜は寝落ちしてしまうから、やっぱり日中がチャンスだ。7月の終わりまでに、あと何回、在宅勤務がある?

わたしは夫と喧嘩したいんだ。結婚してから一度も喧嘩らしき喧嘩をしたことのないわたしたちだけど、ちゃんと感情を吐き出さないといけない。言いたいことも言えないままでは、先に進めない。
珪藻土コースターに置いた麦茶のグラスをもう一度持ち上げて、リビングに戻った。

「やっぱり、今、話してもいい?」
リビングで対角の位置に座ったわたしをちらりと見て、いいよと夫はスマホを置いた。わたしも置いた。ボイスレコーダーをONにしたスマホを。

いつもうまく話せないから、後でちゃんと聞き返せるようにしようと思って録音していたのだ。そうじゃん。あれ、聞いてみよう。洗濯物を片付け終わって、自分の部屋に行く。スマホを探して、イヤホンをつけて、録音を聴き始めた。

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