見出し画像

濡れるのは嫌いだけど海は好き|240804

ざらざらした砂に、小石が混ざっている。足の裏に触れる感覚は、同じ瀬戸内なのに岡山の海とは違っておもしろい。

海が好きとは言っても、何度も来られるわけでもないし季節も限られる。わたしも長男も、一年ぶりの海。山口県の海水浴場にきて、長男は砂浜を歩くのを嫌がってわたしに「おんぶして!」と言ってきた。背中におぶって海まで連れて行ってあげると、安心したのか「つめたいつめたい」と大はしゃぎで浮き輪に乗りながらくるくる回転し始めた。

30分ほどたてばすっかり海に慣れて、顔をつけようとしたり、「あっちに行って!」と沖を指さしたりする。だっこした状態から「うきわに乗る!」と言うので乗せてあげようとしたら、浮き輪がくるりと反転して長男が顔から一瞬海に落ちた。さっと抱き上げて「びっくりしたね。水、吐き出して」と言う。近くにいた友人が「大丈夫!?」と慌ているなか、長男は驚きすぎて泣くことも忘れているのか、少し咳き込んでから「びっくりした。りょーちゃん、溺れちゃった」と呟いた。

本当はちゃんと浮き身の練習からさせてあげたい。海は楽しいけれど危険な場所。何かあったときにパニックにならないように。自分の身を自分で守れるように。

子どもの頃、毎年夏休みの家族旅行は「岡山と島根の海」だった。岡山出身の父の指導により、わたしは海で泳ぎを覚えた。
まずは砂浜でしっかりと準備運動。とくに足の筋肉を動かしてつらないようにする。泳ぎの練習の前に、浮き身の練習。仰向けにすーっと横たわれば浮かぶ。波に揺られるまま、静かに呼吸する。少しくらい顔に水がかかっても慌てない、気にしない。泳ぐのに疲れたら浮き身をすればいい。浮き身ができたら、バタ足、クロール、平泳ぎ。

基本的なことを学んだおかげで、小学校に上がる頃には沖のブイのところまで泳げるようになっていた。隣を泳ぐ父が救命用に浮き輪を持つことがあったけれど、一度も使ったことはなかった。海水が鼻から入ってもぺっと吐き出せるし、ゴーグルがずれれば立ち泳ぎをしながら付け直せる。姉や妹と、お互いの足を海のなかでくぐるのも楽しかった。

息子にそこまで求めるつもりはないけれど、浮き輪に頼らずに、自分の力でどれだけ泳げるのか自覚しておく必要はあると思う。

夜、眠る前に「今日はどんな一日だった?」と聞くと、長男は「海で溺れたのはちょっとこわかったけど、楽しかった」と言った。
「海はこわかった?」
「うーん、溺れないように、ママが近くにいてくれたらいい」
「そうだね。そうするね」
トラウマにならなくてよかったな、とほっとする。

「海は好き?」
砂浜で砂を執拗に払っていた長男を思い出して聞く。体に触れるものに敏感な長男は、ふだん砂や泥が手足につくのも嫌がる。水溜りに入っても、しっかりタオルで拭きたがる子だ。
「うーん、砂が足につくのはちょっと嫌だった。でも海は好き」
「そうなの?」
「りょーちゃん濡れるのは嫌いだけど海は好きなの」

そうなのか。
いやなことと、心地よいことを、きちんと分けて話すのがおもしろい。

「ママも海が大好きなの。また遊びに行こうか?」
「うん、海にまた行く」

いいなと思ったら応援しよう!