#くらしきで暮らす 行きつけ 粋酔日|2024.立冬・山茶始開
山茶始開(つばきはじめてひらく)
倉敷にきてびっくりしたことのひとつに、百貨店が少ないことがある。
主な百貨店は、倉敷駅前にある天満屋倉敷店。それから、倉敷市内各所にあるスーパーマーケット「ニシナ」が昔は百貨店だったと聞くけれども、現在は生鮮食品を買いに行くところというイメージが強い。
わたしが今まで暮らしてきた場所では
・仙台→藤崎or三越
・東京→伊勢丹、三越、高島屋……
・兵庫→阪急、そごう……
・福岡→伊勢丹、井筒屋……
のように、「この百貨店の紙袋さえ持っていれば誰かのお家にお招きされても大丈夫!」と思える百貨店があったので、倉敷のこの百貨店のなさにはなかなか慣れない。
倉敷の人たちに尋ねると、百貨店の紙袋信仰はそこまでなく、お菓子を買うなら白十字やシャトレーゼ。それから、自分が普段通っているお店のものを手土産にすることが多いんだとか。
たしかに、百貨店に行かずとも洋菓子店や和菓子店(源吉兆庵とか)が路面店で存在するので、そのお店に行けば買い求められるってわけ。
まぁ、効率が良いのかもしれないけれども、わたしは当てもなくデパ地下をウロウロして美味しそうなものを眺めるのが大好きなので、この百貨店文化の薄さにはちょっとびっくりしているし、しょうがないから用もないのに倉敷天満屋を覗いてしまう。
今週、ふらりと入った倉敷天満屋はもうクリスマスムードで。
やっぱり、こういう季節を感じられるのが百貨店だよなぁとしみじみ。
道端でやっているマルシェも、公園でやっているお祭りも、倉敷はとても盛んで。季節を感じられる機会はたくさんあるけれども。
クリスマスコフレやマフラーや手袋、モコモコのパジャマがキラキラと陳列され、大きなクリスマスツリーやクリスマスリースがあちこちに配置される、浮足立った百貨店の雰囲気は、やっぱりわたしをワクワクさせるのだよなぁと思う。
倉敷とことこ執筆記事【備中の地酒バル粋酔日】のあとがき的な
倉敷市地域おこし協力隊のわたしに課せられたミッションは
移住検討者向けに生活のリアルを発信すること
このミッションを遂行するために、一般社団法人はれとこという地域メディアが、わたしの受け入れ団体となってくれていて。このメディアにある「倉敷とことこ」でライター兼エディター、「備後とことこ」でエディターをしている。
倉敷とことこで月に5本程度の記事を執筆、両メディアで月5~10本程度の記事の編集作業をさせてもらって11か月。ありがたいことに、たくさんの場所に取材に行き、そこで感じたことを言葉に紡ぎ、ほかのライターが紡いだ文章を編集して、ちょっとずつ倉敷という街を知り始めているような気がする。
そんなわたしが、倉敷とことこではじめて【居酒屋】の紹介記事を書いた日の思い出。
行きつけの「飲み屋」が欲しい、お家大好きっ子
日本酒を「おいしい」と思うようになったのはいつのことだろう。
大学生の頃はお酒が苦手で、飲み会の度に帰り際は気持ち悪くなっていたような気がする。でも、そういう飲み会を重ねていくうちに、わたしはお酒が苦手なのではなくて甘いお酒(ファジーネーブルとかカシスオレンジとか)が苦手なだけで、キリっとした味のワインや日本酒は好きだと気づいて。
いつの日からか、ビールやハイボールを飲めるようになってから、だんだんと「わたし、お酒が好きかもしれない」と思うようになっていった。
でも、実家がビールサーバーもワインセラーも炭酸水を作る機械もある生粋の家飲み派なので、お酒を飲むのはお家が一番。なんなら、お酒がなくたって家から出たくないという地域おこし協力隊としてあるまじき引きこもり体質なので、滅多に外でお酒を飲まない。
別に外に飲みに行くのが嫌いなわけではない。だけど、居酒屋特有のテンションの高い雰囲気に聴覚障がいのあるわたしはついていけないし、毎日飲まないとやっていけない体質でもない。
ただ、仙台に帰省した時は別で、友人の行きつけのお店を紹介してもらいながら飲み歩くのをとても楽しみにしている。彼女は本当においしいお店をよく知っていて「魚が食べたいな」「せり鍋が食べたいな」と呟くと、ふわりとお店に連れて行ってくれる。
彼女が紹介してくれるお店にはずれはなくて、しかもどのお店も「いつも来てくれてありがとうね~。お友達なの?」と声を掛けてくれる。そこで店主とやり取りしながらその日のお勧めを注文する彼女がとてもまぶしくて、彼女が手話通訳してくれる店主と彼女のやり取りがあったかくて。
「行きつけの居酒屋のある暮らし」は、わたしにとってあこがれの暮らしのひとつだった。
単身で倉敷に移住してきて最初の頃は、日々の生活でいっぱいいっぱいで夜まで外に出る元気はなかったので、ずっとお家ごはんをしていて。年が明けて少ししたころにやっと余裕が出てきて、夜の倉敷の街へ繰り出すようになった。
とはいえども
・いろんな人の声が行き交う賑やかな場
・カウンター席に座ると話しかけられるかもしれない
のような居酒屋に一人で行く勇気はなくて、同じ地域おこし協力隊の先輩が働く居酒屋に、倉敷とことこを紹介してくれた友人と遊びに行くことに。
それが、粋酔日だった。
備中の地酒のおいしさよ
粋酔日は、備中の地酒を提供する笑って楽しいお店。
提供されるのは、おちょこ一杯ぶんの日本酒。粋酔日には常に州種類の日本酒が用意されているので、このおちょこ一杯分がちょうどよくて。
いろんなお酒を飲みながら
「これ、おいしいです」
「これに似ているお酒ありますか?」
「このお料理に合いそうなお酒ありますか?」
「そろそろ最後の一杯にしたいんですけど……」
ついつい、いろんなお酒を飲み比べてしまい、気付いたら5時間で6杯のお酒をいただいてしまった。
ほろ酔い気分だけれども、気持ち悪さは全くなくて。むしろ、夜風が気持ち良いあったかさ。
もちろんお酒を6杯も飲んだあったかさ。
出汁のきいたおいしいお料理を食べたあったかさ。
それから、心もぽっかぽか。
キコエルとかキコエナイとか
帰り際ふと気づいたのは、わたしがずっとカウンター席に座っていたということ。
聴覚障がいがあるから、カウンター席は絶対に無理!
と思い続けていたわたしが、手話のできない聴者の友人とカウンターで何時間もお酒を飲み続けたということ。
もちろん、大将には前述のようにお酒をたくさん勧めてもらったし
他のお客さんにもおいしいおつまみをたくさん紹介してもらって……
ちゃんと【わたし】が、居酒屋のカウンターを楽しんでしまったということにびっくりしたのは帰宅してからのこと。
その後も月に1回程度お店に遊びに行っているけれども、いつもカウンター席で大将やほかのお客さんとの交流を楽しんでいる。
倉敷に移住して、同じお耳の仲間とお酒を飲みに行こうとなった日もわたしが連れて行ったのは、粋酔日。
最初は大将から直接話しかけられることに戸惑い「なんて言っているの?」と助けを求めてきた友人たちも、帰りには「楽しいお店だったね。また行きたい!」と足取り軽く帰っていくのがとてもうれしくて。
かのヘレンケラーが
「視覚障がいはモノと人を隔てるけれども、聴覚障がいは人と人を隔てる。もし、どちらかの感覚が自分のものなるのであれば聴覚が欲しい」
と言っていたように、聴覚障がい者は普段の生活の中で常に人と同じ場を同じタイミングで笑ったり泣いたり面白がったりする機会が圧倒的に少ない。
聴覚障がい者同士であればそれを満たせるかもしれないけれども、日常のふとした瞬間に誰かに「伝えたい」と思ってもらえる瞬間がどんなにもうれしいことかと思う。
だから、聴者と同じようにカウンター席に通してもらって、ほかのお客さんと同じように話しかけてもらえる。そういう居酒屋がある倉敷での暮らし、好きだなぁと思う。
そんな経験を重ねさせてもらっている居酒屋さんを、自分の言葉で紹介させていただいたこと。本当にありがたいなと思いながら、記事を綴らせてもらいました。
そして、粋酔日は10月末に11周年を迎えたとのことで。
現在は、11周年イベントを実施中。
オリジナルラベルの日本酒が振舞われる粋酔日の愛され様が伝わってくる素敵な周年イベント。
このタイミングで、大切なお店を紹介できて本当にほんとによかったな。
これからも通い続けるぞ!