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人体、その内と外
エマからこのタトゥーの依頼が来た時、この人は何か人体に関するお仕事をしているのかなと思った。
彼女のアイデアはこうだった。
「数年前に肩甲骨とあばらを折る怪我をした。その時に撮ったレントゲンを見て、自分の骨の美しさに見惚れてしまって。。その美しさを、皮膚の上に再現して欲しい。」
確かに、レントゲンに映される骨は美しいものだ。
青白く映される自身の骨。ライトボックス越しだから、骨自体が発光しているようにも見えて、なんだか神々しい。自分のこの皮膚の下に、こんな綺麗な、でもみんなと同じ骨があるんだ。それは不思議な感覚だ。
エマの「それを皮膚の上に再現したいと思った」、というところに彼女の人体への強い興味を感じた。自身の実際の骨の皮膚上に、同じサイズでその骨自体と、そこに植物を絡めたデザインをという事だった。
施術は2回に分けて行われた。1回目は、メインのラインワーク。2回目は細かいディテイルと黒塗り。
セッションの間に話を聞いてみたら、やはり体に関する仕事に就いていた。
現在は、整形手術病院の看護婦を務めながら、PA(医師の助手)の資格を取るため勉強中だという。
なぜ、その道に入ったのかも聞いてみた。
元々はアートが好きで、たまたまScientific Illustration (医学本などに載っている、リアルな人体、または生物などの挿絵)のクラスを取った時に、人体そのものに興味が移ったようだった。
そのクラスでは、例えば臓器なども精密にスケッチする事を学ぶため、実際の人体資料館や病院などへいく機会も多かったらしい。
そこで出会った教授や医者は、そこに並んでいた臓器の持ち主であった人に、亡くなる前に会っていることがほとんどだったそうだ。それは、臓器提供の同意を得るために面会しているからである。
つまりほとんどの臓器ドナーは病気などで死期がある程度わかっていたわけで、病院内にて研究のため、または資料としての臓器提供を承諾してもらっていたということだ。
生きている時を知っていて、そしてその人の内臓をその後に見つめるのはどんな気持ちだろう。
整形手術で、人の顔が、表面が変わるのを毎日見るのはどんな気持ちだろう。
体という容れ物。その機能、その寿命、それにまつわる執着、美醜。そしてその儚さ、尊さ。
エマは、人体の外と内を見つめてきた。
そしてレントゲンで自分自身の骨を見た時。
内と外を、繋げたら。。それを、強かな、ただ生きようと太陽を目指してのびる植物で、美しく飾ることができたら。
存在しているということを、生きているという事を、エマは真剣に、体というものを通して日々見つめているのだろうな、と私は思った。
私も人の体に絵を刻む者として、エマの経験談やその気持ちに、心動かされたのだった。