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【ショートストーリー】Vol.2 真冬のソフトクリーム

「いろんなことあったけど、全部忘れた」
そう言う高橋くんという男の子の横で、ソフトクリームを食べているわたし。なかなか絵になると思う。
「寒いなぁ」
「当たり前だよ」
ほんの少し笑いながら高橋くんという男の子は、巻いていたマフラーをとってわたしにくるくると巻きつけた。
「ありがとう」
それで、と聞きたかったけど飲み込むことにした。高橋くんは、本当に何もかも忘れてしまったのかもしれない。そんなのぺっとした顔をしていた。決して嫌いじゃない。この子のこと、わたし好きになるな、と直ぐにわかった。でもそれはいけないことだともわかった。彼とはお別れしなくてはならない。
しばらくぼうっとしていた。ソフトクリームは、溶けることはなかった。

カントリーマアムは、やさしくそっとわたしに言った。
「高橋くんはどうしているんだろうね」
「高橋くん?」
「忘れたのかい?」
「・・・・・」
「高橋くんだよ」
「誰だっけ」
「忘れてしまったのなら仕方がないね」
「誰なの?教えてよ」
カントリーマアムは体をわなわなとさせた。
「半年前、父親を正当防衛で殺してしまった男の子のことさ」
そのとき高橋くんのぬぼーとした顔があやふやに浮かんだ。忘れようとしていた記憶の片隅に深く刻まれた言葉がよみがえった。
“ぼくが、父さんを殺してしまったんだ”
涙が音を立てて流れていく。
「辛かったんだろうね。高橋くんは、加害者でもあり被害者なんだから」
「カントリーマアムは、わたしのこと恨んでる?」
「どうして?」
「だって、わたしはあなたたちのたくさんの家族や兄弟を食べてきたんだから」
カントリーマアムは、むふと笑った。
「それはまた別の話です」
そう言うと、そっと体を差し出した。わたしはそれをありがたくいただくと、やさしい甘さがそっと体中にしみわたって悲しみが少しだけやわらいだ。
「ありがとう」
声に出して言ったとたんに、悪夢の熱のすべてが蒸発していった。

高橋くんに初めて会った日からちょうど1年後のことだった。高橋くんは前と同じベンチに座っていた。あのときより、さらにぬぼーっとしていたように思う。
「こんにちは」
後ろから声をかけると、
「ああ、」
高橋くんは、わたしをゆっくりと振り返り、またゆっくりと前を向きなおした。
「今日は、あなたのぶんもソフトクリームを買ってみたんだけど」
しばらくの間、ふたりならんでただひたすらにソフトクリームを食べた。
どのくらいの時間が経ったんだろう。
突然、高橋くんが言った。
「忘れられるわけないよ」
ふと隣を見ると高橋くんは泣いていた。涙を流さずに、声も出さずに。

<終わり> 1059文字

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