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【小休止2】上半期に書いてきた文章

さまざまなジャンルの文章に、自分なりの赤ペンを入れていく企画です。マガジンの詳細については【はじめに】をお読みください。

赤ペン企画も10回が終わりました。早いもので、今年も折り返しですね。この赤ペン教室は、年始に1年間は続けようと決めてスタートしました。本業の締め切りに追われるなかで月に2回アップするのは、大変なこともありますが、それ以上にいろいろな文章に触れられることは楽しいです。

日頃は、取材をしてそれをもとに文章をまとめることが多いのですが、赤ペン教室の場合は、お題に対して、自分の引き出しをひっくり返して、ネタになりそうな経験や価値観を隅々まで探して、どういう切り口で書くかを考えて書く作業です。本業の仕事とはまったく別の脳みそを使うので、とても勉強になります。
文章を上手に書くテクニックを教えます!と言いながら、この企画で一番学ばせてもらっているのは、実は私自身なのでした(笑)。

下半期も、いろいろなテーマで文章を書いていきたいと思います。1本100円の有料記事にはしていますが、参加は無料です。この文章見てほしい!私も書いてみたい!という方のご参加をお待ちしております!

半年間、10個のお題に対して、私自身も毎回書いてきました。
有料部分で見られないので、今回は前半を振り返って、印象に残ったものを3つ紹介します。

まずは、こちら。

第6回 お題は、平成の思い出(500字)。

忘れられない春がある。
平成10年の春。高校の教室で、私はある知らせを待っていた。
ポケベルがブルっと鳴った。
「リュウサンワラウ」
母親から、第一志望の大学の合格を伝えるメッセージだった。リュウサンとは、当時飼っていたビーグル犬の名前。「サクラサク」に代わり、親と決めた暗号だった。
大学に入り、離れて暮らすことになった家族との連絡手段はFAXだった。ロールの感熱紙から普通紙対応に変わった頃。サンリオで買ったキティちゃんの電話機は、私が書いた近況報告に、自動でキティちゃんの顔を印字した。
スマートフォンが普及し、はじめて親とテレビ電話をしたのは平成25年頃。
「これなら離れていても淋しくないね」
画面いっぱいに、嬉しそうな母親の顔。
数分近況を話して電話を切ろうとするが、どちらからも切ることができない。
「お母さんから切ってよ」と私が言う。
「あんたが切り」と母親が言って、ふたりで笑う。
「じゃあ、切るよ」
画面いっぱいの母親が消えた。

平成31年の春。
「まりちゃん、何しよるん?」
今は、5歳の甥っ子が自由に親のスマホを操作し、テレビ電話をかけてくる。


平成の思い出といっても、平成の31年間は、ほぼ私が生きてきた人生そのものなので、何を書いていいのか……と悩みました。
30年という時間で、私は大人になり、就職し、東京に出てきたわけですが、振り返って最も大きな変化は、通信手段の進化ではないかと思いました。平成30年間での通信技術の進化は、私にとっては、離れて暮らす家族との距離を縮めてくれたものでした。

そして、最も書きやすかったのは、このお題。

第8回 お題:社会人1年目の私へ(600字)

社会人1年目の私へ
私たちにとっては毎月の作業でも、手に取った読者には、そのときだけのたった1冊。
月刊誌の制作進行を任された社会人一年目。私は一つのミスをしました。また来月、私は同じ作業をして、ミスをしないことはできるけど、今月、手に取った読者には取り返しがつかないことをしてしまった。自分が抱える責任の重さに震え、トイレでひとり泣きました。そのとき、冒頭の言葉を、私は胸に刻んだのでした。
あれから17年が経ちました。今の私は22歳の私よりもできることは多くなりました。
しかし、スキルや経験とともに、失ったものもあります。
初めて自分が携わった雑誌を手に取ったときの喜び。仕事の対価を実感した、初めての給与明細。与えられた仕事をこなせず、未熟さに泣いた日。
今でも、22歳の私が胸の中にいると言うと、あなたは不思議に思うでしょうか。
時々、あなたは私にこんなふうに語り掛けてきます。
熱さを忘れていないか。
心震える仕事をしているか。
一つひとつの仕事に、誠実に向き合っているか。
能力がつき、スピードが上がるほど、手なりでこなす自分にハッとすることがあります。
仕事をするうえで最も大事なことは、それにどう向き合うかです。
どんな小さな仕事であっても、一つひとつに真剣に向き合うこと。そうすれば、スキルやお金は必ずあとからついてくる。そんな一番大事な仕事への姿勢を私に教えてくれたのは、他でもない、社会人1年目のあなたでした。

最後は、こちら。

【第5回】お題は この春、卒業したいこと(500字)

この春、私が卒業するのは「天ぷら」だ。
予兆は少し前からあった。大好きな天ぷら御膳ランチ。
あれ?
食べたあと、胃もたれを感じた。いやいや、今日は胃腸の調子が悪かったのだ。お店の油の質も、良くなかったのかもしれない。
少し経って、次は天ぷらそばを食べた。うーん、やはり胃もたれ。
3度目の正直で挑んだのは、刺身定食に添えられた天ぷら。お腹をすかせて食べたのに、またも胃もたれになり、天ぷらからの卒業を悟った。
これまでの人生、多くのことを自分の意志で卒業してきた。だけど、こうして意志とは関係なく卒業しなければならないものもあるのだと気付かされる。
そういえば、大学時代、あんなに大好きだったとんかつ屋さんにも、もう何年も行っていない。山盛りのキャベツ、ゴマを擦って作るソース、衣を噛んだ瞬間の歯ごたえ……。
あと何年生きるか分からないけれど、人生でもう二度と、とんかつ屋さんに行くことはないのだろうか。そう考えると、一抹の寂しさを覚える。
いや、待てよ。
ふと見えた、一筋の光。天ぷらもとんかつもダメだとしても、衣のついていない大好きな揚げ物があるじゃないか。
そうだ、私にはまだ、ポテトフライが残っている。


我ながら、何ともおかしな文章を書いてしまったなぁ、と(笑)。
「卒業したいこと」というよりは、「卒業せざるを得ないこと」ですね……。

筆致」などという言い方をしますが、文章には必ず書く人の癖があります。それは言い換えれば個性なのですが、よく使いがちな言葉や表現があり、どうしても似通ってしまいます。

敢えてその殻を破って、違う文体に挑戦するのも大事だなと思っていて、私は書くときにまず「トーン」を意識するようにしています。「ポップに」書くのか、「しっとり」書くのか。それを決めてから書き始めるだけで、バリエーションを変えていくことができます。
「春」「卒業」と、しっとりしたテーマなだけに、思い切りポップに舵を切ってみました。
このテーマは実際、すごく書きづらくて、春だからといって卒業したいこともないしなぁ……とずっと悩んでいたときに、ふと、シャワーを浴びながら、ランチで胸やけしたことを思い出したのでした。常に考えていると、何かの拍子に、引き出しが開くことがあるんですね。

前半戦にお付き合いいただいた皆さま、ありがとうございました。

次回(7月15日)は、通常の赤ペン教室に戻ります。【第11回】あなたのふるさとを紹介してください(600字) の予定です。

ノンフィクションを書きたいです!取材費に使わせていただき、必ず書籍化します。