かぎりなくやさしい花々
もう本当に随分前のこと、父がわたしにしてくれたことを今年になって思い出しました。
今年の春に詩画作家の星野富弘さんが亡くなりました。
ずっと忘れていたことだけど、実はずっとわたしの心の一番深いところで温かく見守ってくれていた本がありました。
それは
星野富弘さんの「かぎりなくやさしい花々」です。
東京に住んでいたわたしは、人に騙されて自分の歩く道がわからなくなったことがありました。
その時、わたしを地元に連れ戻したのが父でした。
凧糸の切れた凧のようにふわふわした日々を過ごしていたあの時、父がわたしに買ってきたのがこの本でした。
星野富弘さんという詩画作家がおられること知りませんでした。
本を開いてみると美しい花の絵と温かい手書きの文字が目に飛び込んできて、きれいだな、温かいなと、ページをめくりながら思ったのを覚えています。
星野さんの書く詩は、傷ついたわたしの心を優しく癒してくれる薬のようでした。
後になってこれが口で描いた絵と文字だと知り深く感動しました。
父は理系で文学的な本など読む人ではなく、本棚には理系の本ばかり並んでいました。
そんな父が星野富弘さんの本を買ってくるなんて驚きでしかありませんでした。
父は11年前に他界し、もう父も母も写真の中にしかいません。
毎朝おはようと話しかけ、おやすみと挨拶をするだけ。
わたしの今の悩みも苦しみも、父にも母にも相談できるわけはなく、自分の中で整理してどうにか日々を過ごしています。
そんな中にふと思い出した星野富弘さんの本。
詩も絵も読む人に寄り添ってくれ、慰めてくれ、温めてくれる。
絵を描く、文字を書く、そこにその人の思いが宿るように思います。
それが本になり印刷されて読む人の心に届き支えてくれる。
本当に素敵なことだと思います。
父はとても口下手で、家族とも上手に会話することができませんでした。
そんな父がわたしにしてくれたことの意味などあの頃は考えもしなかったけど、星野さんが亡くなってからようやく、父の思いがわたしに伝わってきたのです。
「かぎりなくやさしい花々」は、父そのもの。
だから、今更ながらありがとうと言いたいのです。