表現の世界が広がる、ミュージシャンの3つの「聴く」テクニック。
歌い手、演者が表現の引き出しを広げるために、「聴く」ということの大切さはいつもお伝えしているところです。講座でも単独コンテンツとして「聴く」ということについて取り上げたり、個人レッスンでもいろんな形でお伝えしている、長年考えてきたテーマです。
もちろん「資料」として「たくさん聴く」というのは、当たり前として。その上で、いつもお伝えしているのは、「広く聴く」ということだけでなく、「深く聴く」ということ。そのためのさまざまなテクニックを手を変え、品を変え、いろいろお伝えしきましたが、最近こういうやり方はどうかとふと思って、生徒さんにお伝えしたら、かなり別人レベルになっていたことが判明したので驚いたのです。どのように変わったのか、その話はまたあらためて書くとして、今日はそのテクニックのことを書きたいと思います。
きっかけは以前に読んだデイリーポータルのエントリなんですが、「斜に構えると、構えないを1分ごとに切り替えるとどうなるか」という、いわゆる心理学の「リフレーミング」のテクニックを使って、いろんな道端にあるものを観察していくと面白いほど発見があるというものでした。
これを先日ふと思い出していて、これ音楽にも使えるんじゃということで、試しにこんなふうに音楽を聴いてみたらどうでしょうというご提案です。
まずはこれといった曲を1曲選びます。やはり自分が聞き込みたいと思うものがいいですが、ふだんあまり聴かないジャンルの中から、それでもちょっと気になるなというものをピックアップしてもいいです。
これを3つのモードで聴いてみます。
1つ 推しモード 大ファンになって聴く
推しを思う気持ちで、すべてオッケー、好きを全開にさせて聴いてみてください。ぐっとくるポイント、ここはうまいなあと感動するところ、好きなところを徹底的に探します。実際好きな演者のものだったらカンタンですが、いままではいまいち苦手だったけど、ちょっと気になるなというものとかにもやってみます。
さらにぐっときたポイントを深堀りしてみます。どんな音、響きなのか。どんなグルーブなのか。どのようなテクニックを使っているのか。
2つ 評論家モード 批評的に聴く
今度は評論家になってみます。ちょっとイヤな評論家です。辛口かつ斜に構えて、粗探しをしてみましょう。この部分はちょっとなー、自分ならこうするな、ここは苦手だわ、こんなんやりすぎじゃないとか、分析してみます。
なぜその部分が気になるのでしょう。それは反面教師となるのか、もしかしたら自分の演奏の変えたい部分なのか、その部分を削ぎ落としたところが自分のスタイルなのか。または分析することで、逆に「スキ」になったりすることもあるかも。
そして音楽を演奏する人の場合、最後にこれを加えるのがポイントです!
3つ 中の人モード その演奏の演者になって聴く
一般的に、音楽を聴くときは演者対自分ということで、自分の外側にあるものとして演奏を聴いていると思います。環境音、 BGMならもちろん、ライブだとしても演者がいて、リスナーがいる。
でも歌い手、演奏者が何かをその演奏から得ようと思って聴くとき、もっとも大切なモードは、この「中の人」モード。
演奏の中の誰か1人を選んで、その「中の人」になって自分が歌っている、弾いている、叩いているという状態で、聴いてみてください。ボーカル、自分の楽器だけでなく、むしろ自分の楽器と違う人にもなってください。
演奏の外円にいるのでなく、「完全に重なる感じ」になることがたいせつ。
ちなみにですが、「聴きながら実際に一緒に歌っている」方、それも「一体感」のひとつだと思うのですが、それは厳密にいえば「一緒」であって「一体」ではないので、一度、歌うのをやめてただただ聴いてみてください。Inner VisionというかInner Listening。
その場所から、どんなふうに音がみえますか?周りの音とどんなハーモニーが展開されていますか?どんなふうにビートやリズムの躍動を感じますか?その演奏の中に徹底的に潜ってみます。
1つめと2つめが、演奏の外側で「肯定」「否定」の立場で聞くというのに対し、3つめは演奏の内側で肯定も否定もなく聴くというのがポイントです。3つの聴き方をすることで、いままでとはまったく違ったものが見えたり、発見があったりすると思います。
聴くことは、ミュージシャンにとって、自分の演奏クローゼットの引き出しのアイテムを増やすこと。大好きなものを増やすことはもちろん、いままで気づいてなかった似合う色とか、形を見つけたることもできます。初心者のうちはこの引き出しをどんどん増やしたいもの。そして深めていけばいくほど、「見える」ことが増えてきます。そのうち断捨離も必要になったりするんだけど。
表現力が課題と思われる方は、ぜひお試しあれ。
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