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【中国茶コラム】⑧黒茶について

ダイエットにいいと噂の黒茶。
雲南省「普洱茶(ぷーあーるちゃ)」がとても有名ですが、それ以外の「黒茶」についてもご紹介させて頂きます。

「黒茶」とは、酵母や菌などを使って厳密に「発酵」させたお茶の事を指します。(別名「後発酵茶(こうはっこうちゃ)」)
特に黒茶は、中国やその周辺に住む少数民族の人たちにとっては欠かせない生活の一部となっています。

↓ ちょっと見づらいですが、中国の「黒茶」の主な生産地域

雲南省、四川省、広西区、湖北省、湖南省を中心として生産されたお茶が
お茶が作れない地域に住むモンゴル族やチベット族、新疆ウイグル自治区などへ出荷されます。
野菜があまり採れない地域に住む少数民族の人達にとってお茶は貴重な栄養源であり、食生活の一部として定着し「一日として茶無かるべからず」とまで言われるようになっています。

唐時代から「お茶」と少数民族達の「馬」を交換取引する「茶葉交易」が盛んに行われていました。
時代や地域によって異なりますが、だいたい馬1頭は60~100kgのお茶の価値があったようです。
数千~万頭の馬と交換するのに、大量のお茶を何ヵ月もかけて辺境の地へ運ぶ必要があります。
そこで生まれたのが、茶葉を固めて作った「緊圧茶(きんあつちゃ)」です。効率よくお茶を運べるように、レンガ状や丸いお椀型など様々な形の緊圧茶が生まれました。
丸い円盤型の固まったお茶「餅茶(へいちゃ)」を見たことがある方も多いはず。

↑ かつてはまん丸だった「餅茶」の普洱茶です。
写真右のペンのような形の「プーアール刀」で、側面からガンガン突いて砕いていきます。(上から突く方法だと、硬すぎてうまく砕けません)

この馬 × 茶葉の交易に使われていた「茶馬古道」は、”南のシルクロード” または ”ティーロード” として、今も観光の名所となっています。

ちなみに「普洱茶」の原産地である「普洱市」は、茶馬古道 において重要な交易の拠点のひとつでした。(もう一つの拠点は四川省の「雅安」という町です。)

現在「普洱茶」の「プーアール」とは、お茶が作られている周辺地域の事を指しています。
交易の中心となっていたこの場所に徐々にお茶が集められるようになっていき、のちにこの普洱から出荷されるお茶の事をメインに指すようになりました。
(コーヒーの「モカ」と同じですね。モカはイエメンの「モカ港」から輸出されているコーヒーを指します。)

実は、普洱茶には「熟プーアール茶(熟茶)」と「生プーアール茶(生茶)」があります。

熟茶は、私たちもよく知っている真っ黒い色のお茶です。
独特な味わいで苦手な人も多いのですが、品質が良い物はクセも柔らかく、ファンも多いお茶です。

生茶は、まるで緑茶のような薄い色のお茶で、心地よい苦みと熟成による旨味を楽しむことができるお茶です。
日本ではまだ珍しいお茶ですが、生普洱茶は厳密にいうと「緑茶」に分類されます。

「生茶」と「熟茶」は、その製法が全く異なります。

「熟茶」の製法を簡単に説明すると、

茶葉摘菜

殺青(さっせい)
茶葉に火を通して酸化を止める

揉捻(じゅうねん)
茶葉をもみこむ

握堆(あくたい)、堆積
黒茶独特な工程で、お茶により様々な方法があります。
一般的には茶葉を摘み上げるなどして、高温多湿の部屋に置き、空気中の乳酸菌などの菌を利用して「発酵」させます。
(日本酒の「蔵付き酵母」みたいな感じですね)

乾燥

「生茶」は「握堆(堆積)」は行われず、そのまま乾燥・熟成させて完成です。
簡単に言うと、「緑茶」を作ってそのまま熟成させる感じです。

↑ 「古樹 生普洱茶」

「生茶」は、できたては渋すぎてとても飲めたものではありません。
長い年月をかけて熟成させ、苦味成分をまろやかにしてから飲むお茶です。
(その昔、馬で緑茶を何ヵ月もかけて運んでいる間に、勝手に熟成されて美味しくなったともいわれています)

この熟成期間を端折り、すぐ飲めるようにと1974年ごろ、他の黒茶で行っていた「握堆」の工程を取り入れて開発されたのが「熟茶」です。
私たちがイメージする「真っ黒な独特の味がする普洱茶」は意外と歴史は新しいのです。


黒茶には普洱茶の他に、「茯磚茶(ふさんちゃ、ふせんちゃ)」や、湖南省「安化黒茶」、「黒磚茶(こくせんちゃ」、「金尖茶(きんせんちゃ」、
高さ150cmの筒状に固められ 36kgもある巨大な「花巻茶」などなどなど ... 地域によってたくさん種類があります。

日本にも「黒茶」は存在します。
一番有名なのは「阿波番茶(あわばんちゃ)」ですね。
あとは「碁石茶(ごいしちゃ)」や「石鎚茶(いしづちちゃ)」などなど…
どれも茶葉を乳酸発酵させるので、お漬物のような味がします。

富山県には「バタバタ茶」とよばれる黒茶があります。
専用の茶筅で抹茶のように ”バタバタ” と泡立てて飲む伝統的なお茶です。
発酵食品との相性が良いので、よく中華料理とのペアリングで使用していました。(楽天市場で「バタバタ茶セット」が手に入るので、ぜひチェックしてみてください)


黒茶には体に嬉しい効果がたくさんあるといわれています。
その所以ですが、まだ全ての理由が解明されているわけではないようです。

嬉しい効果 その① ”ダイエット効果”
普洱茶では、微生物発酵にて茶葉のカテキンが「テアデノールA&B」とよばれるポリフェノールに変化して糖や脂質を分解を助けてくれたり、消化酵素の「リパーゼ」と呼ばれる脂肪の分解を助けてくれる酵素が働いたり、と様々な要素があるようです。
また、乳酸菌などの腸内善玉菌が増加して腸内環境を改善してくれるようです。
(長く飲み続ける&適度な運動も必要です)

嬉しい効果 その② ”発ガン成分の抑制作用”
普洱茶が発ガン物質でもある”ニトロソアミン”などを抑制してくれるとの事。黒茶でなくとも、緑茶で烏龍茶でも効果があるらしいです。

嬉しい効果 その③ ”虫歯予防”
茶葉に蓄積されている”フッ素”が骨を強くて、歯のエナメル質を強化して虫歯の抑制になるとの事。
特に黒茶は、よく育った茶葉を原料にするので他のお茶よりフッ素の含有量が多いようです。

あとは血糖値を下げてくれたり、動脈硬化を抑制してくれたり、、、

...と、微生物発酵を経た黒茶にはたくさん効能があるようです。
黒茶は発酵によってカテキン等がいろいろな成分に変化するので、まだ分かっていない成分が関連している可能性が高いとの事。
(ともかく人間に害になる成分はないので、安全性は高いようですよ)

体質にもよるので一概には言えませんが、日常茶として飲んでみてもいいかもしれませんね。

*おススメの黒茶*

「柑普茶(かんぷちゃ)」
「小青柑(しょうせいかん)」ともよばれ、小さいミカンの中に普洱茶を詰め込んで熟成させたお茶です。
見た目も可愛らしく、味わいも柑橘の香りが心地いい、熟普洱茶が苦手な人でも美味しく飲めてしまうような柔らかい味わいです。
そのまま丸々一個で2リットルくらいお茶が淹れられますが、私は砕いて少しづつ飲んでいます。(外側のミカンの皮(陳皮)がとても硬いので、ハサミを使って分解してます笑)
黒茶ではないのですが、最近、日本の伊勢で作られた美味しい小青柑に出会いました。柚子の中に和紅茶が詰まっており、爽やかな柚子の香りに癒されるお茶でした!気になる方はチェックしてみてください。


「生プーアール芽茶」
このお茶は、東京にある私の師匠のお店以外で見たことがありません(笑)
少し紫がかったお茶の新芽のみで製茶され、まるでハーブティーのような爽やかな味わいです。煎持ちもいいので、3gほどで10煎以上楽しむことができます。


「茯磚茶(ふさんちゃ、ふせんちゃ)」
普洱茶以外の中国黒茶の中で、特に私がお勧めしたいのがこの「茯磚茶」です。
「金花」(ユウロチウム・クリスタタム)とよばれる金色の胞子状のカビ菌を使って生産されます。(肉眼でも見れます)
湖南省で生産され、華やかな「金花香」と呼ばれる香りが人気のお茶です。味わいは柔らかく、とても飲みやすいです。
腸内環境を整える働きもあり、さらに酵素の働きで消化を助けて余分な脂肪の吸収を抑えてくれるとの事。
土っぽいニュアンスもあり、トリュフなどのとペアリングもおススメです。
黒茶の中では日本でも手に入りやすいお茶のひとつですので、ぜひ試してみてください。

あと個人的に一番好きな黒茶は、ちょっと珍しい安徽省の
「六安茶(りくあんちゃ)」。
見た目はまるでお弁当箱のようで、笹の葉と竹かごで包まれています。
とてもマイナーなお茶ですが、さっぱりと飲みやすい旨味も感じるような味わいで、1-2gで10煎以上楽しめるので 全然減らない優秀なお茶です(笑)
私は中国茶の師匠のお店で出会いましたが、日本でなかなか販売しているところを見たことがありません...もし出会うことがあれば、こちらも試していただきたい一品です。

黒茶も奥が深く、私もまだまだ勉強中です。
少しづつ、いろんな黒茶をご紹介していければと思います。


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