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飛行機と村上春樹
20数年前の私はドイツ留学のため、ひとりルフトハンザに乗り込んだ。
友人や家族との、一時的ではあるが、
若い時分にはとてつもなく長い時間に思えた1年間の別れ。
涙を見られまいと(とても涙もろいのです)窓の外をみながら
イヤフォンから流れてきたのはビートルズの「ノルウェイの森」だった。
この時持っていた本が村上春樹の『ノルウェイの森』だったから
19歳の私は心底驚いて、涙もひっこんだ。
こんな偶然ってあるんですね。
最初のページを開いてさらにびっくり、
主人公がルフトハンザに乗ってハンブルグ空港に降りたとうとする時に
流れてきた曲が「ノルウェイの森」という場面で始まったから。
私が降り立つ予定だったのはフランクフルトだったけど
それでも驚いて、悲しい別れの気持ちは吹っ飛び、物語に没頭していった。
その時以来、飛行機に乗る時は村上春樹を何か1冊携えるのが習慣になった。
作品中のBGMが流れてくるなんていう偶然はその後出くわしていないけれど、
あの飛行機の中で貪るように読んだ『ノルウェイの森』は
ちょうど大人になろうとしていた私に少なからず刺激を与えたし
ビートルズの「ノルウェイの森」を聞くたびに、
あのルフトハンザの飛行機特有の匂いとワタナベと直子とレイコを思い出し、
心がギュっと掴まれるような切ない気持ちと、そして
「自分で人生を選び、責任をもつこと」が「大人になること」なんだと知った、
新鮮な決意を思い出す。
ドイツでの生活が落ち着いた頃、本屋さんでドイツ語版ノルウェイの森を買った。
ドイツ語のタイトルは"Naokos Lächeln" (直子の微笑み)で
意訳にもほどがあるんじゃないかと思ったけれど、
私のドイツ語力ではドイツ語訳に「村上春樹」らしさがあるかを
感じるには不十分で、カクカクした文体を追うことに必死だった。
これまた良い思い出。
いずれにしても、飛行機の中で読む村上春樹は結構おすすめです。
何かを媒介したり、異界と行き来したり、っていうのが旅に合うのもあるのかな。