賢い人は子供を作らない?!
以前、2ちゃんねる(※現在の5ちゃんねる)開設者のひろゆき氏がYouTube動画でタイトルにあるように、
「賢い人は子供を作らない」
と発言をして話題を呼びました。
この発言に対して大きな批判が起きなかったのは、今の日本が置かれている社会的な状況を鑑みたときに、ある程度理にかなっていると感じる人が多かったということではないでしょうか。
ひろゆき氏の意見は、現代の社会構造や経済など(彼から見た)現実面に基づいて展開されることが多いせいか、YouTube動画でいろいろなことを言っても、それらが批判の対象になることはあまりないようです。
で、今回の「賢い人は子供を作らない」という意見は、主に経済的な理由を根拠にしています。
要点を言うと、
・子供を作ると単純にお金がかかるため、経済的な不安を抱えることになる
・今の資本主義をベースとした社会構造は、安心して子供を育てにくい環境であるため、精神的負担が重くなる
ということが大きな理由になります。
ひろゆき氏と同じような考えを持つ人は多くいると思います。
(他でもない私自身がそうです。)
ただ、こういった考えは別に今の時代に始まったものではなく、例えば、2,000年近く前に書かれた新約聖書の中でパウロは次のように述べています。
「結婚する人たちはその身に苦労を負うことになるでしょう。わたしは、あなたがたにそのような苦労をさせたくないのです。」
コリントの信徒への手紙7章28
「要するに、相手の娘と結婚する人はそれで差し支えありませんが、結婚しない人の方がもっとよいのです。」
コリントの信徒への手紙7章38
これを書いたパウロ自身は、もちろん生涯独身でした。
ただ、この例の場合、結婚せずに独身でいることを勧めている理由は、経済的な理由ではなく、信仰的な理由です。
当時まだキリスト教が危険なカルト集団と見なされており、クリスチャンが迫害され、最悪殺されることも多かった時代にイエス・キリストへの信仰を保つためです。
当時のキリスト教は、1990年代に地下鉄サリン事件で世間を騒がせたオウム真理教と同じように危険視されていたのですね。( ゚Д゚)
いずれにせよ、
結婚することでその身に労苦を背負うことになる、
という点では共通です。
ひろゆき氏は、主に、経済的な問題や資本主義をベースとした社会構造の問題から、賢い人は子供を作らない、と言っているわけですね。
実は、子供を作らないことを良しとする考え方は、最近の社会情勢から出てきたわけではなく、200年ぐらい前からすでに一部の哲学者の間で提唱されてきたものです。
この考えは、
反出生主義
と呼ばれています。
反出生主義とは、簡単に言うと、
人間が生まれてきたことを否定し、新たに子どもを生み出すことも否定する考え方です。
この思想は古代からいくつかの文献に出てくるらしいですが、初めて公に世に打ち出したのは、アルトゥール・ショーペンハウアー(1788年2月22日 - 1860年9月21日)というドイツの哲学者です。
ショーペンハウアーの考えとしては、人間は誰一人として例外なく人生において数多くの苦難を経験することが避けられず、このため、最初からこの世に子供を産み落とさない方が人類にとって幸せである、もっと言うと、人類は滅亡した方が良い、という、かなり過激な考え方です。
過激な思想ではありますが、他にも反出生主義を擁護する哲学者は多く、ハンガリーのエミール・シオランや、南アフリカ共和国のデイヴィッド・ベネターなどが有名です。
一見すると、かなりネガティブに偏った過激な思想に聞こえますが、世の中から苦しみを取り除くには、という問いに対する究極の回答でもあり、意外と反論できない面があります。
約2,500年前にインドで悟りを開いたお釈迦様は、反出生主義者ではありませんが、この世に生まれた人は誰一人として例外なく「生老病死」という四大苦から逃れることが出来ない、と断言しています。
興味深いのは、「生」つまり、生まれることも四大苦の一つであるということです。
つまり、この世に生まれてくること自体がすでに苦悩であるというわけです。
(※仏教では生まれてくることを否定しているわけではなく、むしろ肯定しています。)
人生は苦しいことが多い(「一切皆苦」)というのは多くの人にとって事実でしょう。
ただ、だからと言っていつもネガティブな気持ちで生きているのは辛いだけなので、私たちは、
「生きていれば良いこともたくさんある。」
とか、
「人生は自分の心がけや行い次第でいくらでも楽しいものにできる。」
とか言って、自分の心を何とか前向きに保とうと努力しているのです。
私は、人生はたしかに苦しいことが多いように出来ているけれども、それら苦しみもどう受け止めるかによって、いくらでもポジティブに変換することができると考えています。
しかし、そうは言っても、やはり人間であれば誰しも人生のどこかの時点で、
「生きるのが苦しい」
「生まれてこなければ良かった」
とネガティブな気持ちになるものです。
そして、そんなネガティブな気持ちになってしまう自分を責めてしまって、余計に苦しくなるということもあるのではないでしょうか。
そういったときに、偉大な哲学者が提唱した反出生主義という考えを知ることで、
「苦しんでいるのは自分だけじゃないんだ」
「生きることをネガティブに捉えてしまう自分でもいいじゃないか」
と、一種の自己肯定感を見出すことができるのではないかと考えます。