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【エッセイ】マスク雑感
マスクがこんなにも必要不可欠になるなんて誰が想像できただろう。マスクのことを思わない日はない。1日に何回もつけたり外したり、日によっては数時間つけ続けている。こんな毎日を誰が想像しただろう。
朝起きると、マンションのごみ置き場へゴミを持って行くのだが、そのときも忘れずつける。エレベーターに乗るからだ。6人乗りと小さいので、誰かが乗ろうとしていたら、「お先にどうぞ」と見送っている。郵便受けを見に行くときも然り。忘れっぽいので、玄関に常にスタンバイさせている。
いいこともある。すっぴんで闊歩できるようになった。メイクにかける時間を大幅に短縮できたばかりか、化粧品への出費も減った。ファンデーションをべったりと塗らないからか、肌の調子も前よりいい。そんな気がしている。
電車の中は、白、ピンク、黒と、色とりどり。以前からインフルエンザや花粉症対策につける人はいたが、現在、乗客の着用率は100パーセントだ。以前ならちょっと異様だと思ったかもしれないが、今は安心できる。
異様で思い出したのは、俳優ブラット・ピットの記事だ。数年前の冬に来日した時、マスクをつけているファンが多くて、戸惑ったという。つける習慣のない欧米人からすれば正直な感想だろう。
しかし今の彼は、日本のマスク文化を称賛している。「つけない自由」を求める一部のアメリカ人に対して、「つけることは思いやりのある行為だ」と重要性を訴える活動をしていると書かれていた。
思いやりのある行為といえば、数カ月前にのある日、分厚い封筒が届いた。差出人は、5年ほど前に日本語学校を卒業した中国人のリンさん。日本の大学院を修了後、中国の男性と結婚し、女の子が生まれたことは知っていた。今は年賀状をやり取りするだけの付き合いなので、何事かと封を開けてみると、マスクが6枚と手紙が入っていた。
「今どこでもマスクを買うことが難しいので、先生のマスクが足りないかなと思って、サポートしたいと考えております。そんなに多くないですが、必要な時にお使いいただければ幸いです」
驚いたが、嬉しかった。すごく嬉しかった。マスクはバラだったから、箱の中から6枚を取り出して、送ってくれたのだろう。10枚ではなく6枚というところに、彼女も充分にないのだと思った。仕事を辞めたいと考えていたときだったので、それはそれは救われた気持ちになった。
その後、我が家にもアベノマスクが届いた。夫は要らないと見向きもしない。アベノマスクが不要なら、ホームレスの支援センターに送ってほしいという新聞記事を見た。それも心引かれたが、自粛生活で時間を持て余していたので、もう少し大きいサイズにリフォームすることにした。
アベノマスクはM国の工場で作られたという。想像するに短い納期だったのではないか。長時間労働の末、作ってくれたのではないか。遠い異国の人々に申し訳なく思いながら、感謝しながら、きれいなミシン目をほどいた。
残念ながら、マスクとのつきあいはまだ続きそうだ。面倒だし、息苦しさも感じるが、子供からお年寄りまで頑張ってつけている。
マスクは人類が新型コロナウィルスと戦うための「盾」ともいえる。必ずや勝どきを上げられると信じている。その日まで、おのおの方、ぬかりなく!
(2020年12月に書きました)
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