〝カビ〟の賜物
世界各地でつくられている甘口ワイン。イタリアの「パッシート」やスペインの「シェリー」など。なかでもフランス・ソーテルヌの「貴腐ワイン」は、世界を代表する甘口ワインです。
貴腐ワインが、パッシートやシェリーと決定的に異なる点は原材料。パッシートやシェリーは〝干しぶどう〟を使用するのに対し、貴腐ワインは〝カビ〟の生えたぶどうでワインをつくります。収穫前のぶどうにカビ菌が発生し、果皮に穴があきます。その穴から空気が蒸発し、ぶどうの糖度が高まるというもの。くわえて、菌の繁殖で芳醇かつ独特な芳香が付与されるのも、貴腐ワインならではの特徴です。
フランスでは貴腐ワインを「プルティール・ノーブル」と呼びます。直訳すると〝高貴なる腐敗〟。カビの生えたぶどうをそう例えたというから、実に言い得て妙。そんな高貴なる腐敗から47年の歳月がたち、漆黒化した「シャトー・ラフォリ・ペラゲ1977」、その色調からは想像できないほどの、優艶な酸と甘美なあまみが広がります。アールグレイを想わせる芳醇な芳香が、おなじく〝カビ〟の賜物「ロックフォール」のベイクドチーズケーキと相性抜群。
日本人に身近な、味噌や醤油も「コウジカビ」というカビ菌によってつくりだされる逸品。〝食品の大敵〟であるカビが、世界の食文化発展の一端を担ってきた、というのは意外、かつとても興味深い話です。