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ライシテとイチョウの葉が教えるフランスの価値観

フランスでは毎年12月9日、「ライシテの日」が祝われます。この日は、1905年に政教分離を定めた法律が施行された記念日です。フランスが長い歴史の中で培ってきた「自由」「平等」「多様性」の理念を象徴するこの日は、現代における国家と個人、そして文化のあり方をあらためて考えるきっかけを提供してくれます。

この時期、フランスの街角でイチョウの木が植えられるのをご存じでしょうか。イチョウの葉は、その扇形の中央に切れ込みを持つ特徴的な形状が、公と私、つまり政治と宗教の分離を象徴するとされています。この木がもともと東洋から伝わり、いまやフランスで「ライシテ」の象徴として愛されているのは、異なる文化が交わり、新たな価値を生み出すことの可能性を静かに物語っています。

ただし、イチョウの実、すなわち銀杏を食する文化はフランスにはほとんど存在しません。銀杏はアジア、とりわけ日本や中国で親しまれ、香ばしさとほろ苦さが料理のアクセントとして重宝されていますが、この銀杏とフランスのロゼ・シャンパーニュが驚くほど相性が良いことをご存じでしょうか。

たとえば、エティエンヌ・カルサックのローズ・ド・クレ。このロゼ・シャンパーニュは、その名の通り「白亜のバラ」を思わせる華やかな香りと奥深い味わいを持ちます。ヴァレ・ド・ラ・マルヌとコート・デ・ブランのプルミエ・クリュで育まれたぶどうを使い、全房搾りという贅沢な製法でつくられたこのシャンパーニュは、辛口ながらも果実味の厚みと繊細な苦みを兼ね備えています。そのほのかな苦みは、香ばしくローストした銀杏の旨みと見事に調和し、両者が互いを引き立て合います。

イチョウの葉が教えてくれるのは、異なるものが分かれつつも調和する美しさ。そして、ライシテが示すのは、多様性を尊重しながらも一体感を求めるフランスの理想です。この「ライシテの日」に、一粒の銀杏と一杯のシャンパーニュを味わいながら、そんな価値観に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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