第1話 鏡の怪
・・・これは私が中学生の頃の出来事です。
仲良しの友達A子が入院し、友達3人とA子のお見舞いに病院を訪れた時のことでした。
その病院は建て増しした新棟と昔からの古い棟があり、二つは廊下で繋がっていました。古い病院なのであまり足を運びたくなかったのですが、友達が入院している病棟は新しい棟の方でしたし、仲良し仲間の私だけがお見舞いに行かないのも不義理に思い、思い切って友達と一緒に出かけることにしたのです。
「え~、マリも来てくれたんだ? 嬉しいけど無理しなくて良かったのに。(笑)」
A子は私の霊感を知っていましたからお見舞いなど来ないかと思っていたようで、それでもとても喜んでくれました。
仲間同士で雑談を楽しんでいる最中、私は急にトイレに行きたくなったのです。
「トイレって・・どこ?」
と、A子に小声で尋ねると、
「ああ、この部屋を出てすぐ右よ。・・・でも大丈夫?(笑)誰か付いていってあげたら?」
A子は茶化すように言いました。
「アハハ、やだ、大丈夫よ。(笑)まだ4時だし人も沢山いるしね。」
そう言い残すと、私は1人部屋を出て、右側に見えるトイレに入りました。しかし、残念ながらそこは清掃中。
「その廊下の突き当たり左にもトイレがあるよ。」
清掃中の女性に教えられ、私は別のトイレを使用することにしました。
・・・しかしそこは、廊下の向こう側の古い棟のトイレでした・・・。
それでも我慢は身体に悪いですし、止むを得ず古い棟の方へ向かったのです。
明るい雰囲気の新棟に比べ、古い棟は何となく薄暗く、ドンヨリとした雰囲気でした。 気のせいか、すれ違う人々の顔もどことなく暗く、沈んで見えました。
そっとトイレのドアを開け、中の様子を伺いますと、誰もいません。
新棟とは違い、狭苦しく何ともいえないヒンヤリとした空気の中、トイレ用の古めかしいサンダルに履き替えると、カランカランと音を立てながら三つあるうちの一番手前のトイレに入り、速やかに用を済ませ、一つしかない小さな洗面台で、ネットに入ってぶら下がったレモン色の石鹸を使い、手を洗いました。冷たい水で手を洗っていると、ふと鏡越しにパジャマ姿の髪の長い女性が見えました。その女性は私と目が合うと、鏡越しにじーっと私をみつめながらニコリともせず、トイレの個室に入って行きました。
・・・何だろう?彼女じ~っと私のことを見てたみたいけど・・?
知り合い?でもないしなぁ・・・
などと思いながらポケットのハンカチを取り出し、手を拭うとトイレを後にし、鏡越しに見えた女性の話を早速A子にしました。
・・・すると話を聞いているA子の顔が急に青ざめたのです。
「・・・マリ?古い棟のトイレに行ったのよね?」
と、確認するA子。
「そうよ?それが何?」
「・・・マリ、あのね、古い棟のトイレにはね、鏡がないはずなんだよ?」
「・・・え・・・? う、うそよ。(笑)だって鏡越しに女の人が・・・」
・・・そう言いかけた時、その場にいた私を含む全員が凍りついたのは言うまでもありません・・・・。