第3章-1 (#13) 避けられてる[小説]34年の距離感 - 別離編 -
夏休み明けの教室は、どこかピリピリとした空気が流れている。部活を引退した中3生は、行き先もわからないまま、受験という名のベルトコンベアに乗せられて運ばれていく。
「おはよう」
「おはよう」
あいさつは返してくれたものの、まともに顔を合わせることもなく、朔玖はそそくさと行ってしまった。なんか変! わたし朔玖に避けられてる?
教室のピリピリ感が、より一層この不安と疑いを増幅させる。日を追うごとに疑いは色濃くなっていく。夏休みを境に、わたしは朔玖から避けられる世界に移動してしまった?
「わたし、朔玖に何か悪いことした?」
「怒ってるなら、ちゃんと言って」
これが言えたなら、どんなによかったことだろう。きっと朔玖を怒らせたんだ。知らないうちに、何かやらかしちゃったんだ。
謝らなきゃ。
許してもらわなくちゃ。
謝るって何を?
許してもらうって何を?
そういえば、毎回テストでライバル視されてたな。
「月桜。何点だった? 400点いった? なんでいつも涼しい顔してる?」
朔玖は、死にたいくらい強烈な学力コンプレックスを抱えているって、ずっとそう感じてた。もしかして、月桜の方が成績いいのが嫌なのかな? ううん。成績の差なんて前からわかってる。そんなことじゃない。きっとこれだ。
2年生の頃、わたしと藤堂をくっつけようとして、黒崎が散々囃し立てていたことがあったっけ。だからクラスメイトのほとんどは、わたしたちを学級委員カップルだと思い込んでいた。だけどそのうち、ひとり、ふたりと気づき始めてしまった。わたしの好きな人は誰かって。
朔玖は、自分のことは話さないタイプだった。なんでもできるし、話もおもしろいし、男女問わず友だちも多い。唯一欠点があるとすれば、徹底的に秘密主義なところだ。
「月桜は朔玖が好きらしいよ。朔玖は?」
こんな興味本位の言葉を浴びせられているとしたら、きっと月桜のこと嫌いになる。月桜が態度に出すからだって。月桜のせいだって。朔玖のことが好きな月桜は、朔玖に嫌われてしまう。
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