第2章-1 (#7) 恋の認識[小説]34年の距離感 - 別離編 -
あのときから朔玖のことは、密かにずっと気になっていた。あれ以来一度も、朔玖が長濱くんのことを口にすることはなかった。半年が過ぎ、わたしたちは3年生になっていた。
「帰りの会が終わったら、4階の踊り場まで来て」
斜め後ろの席から、一瞬の隙をついて、朔玖がこそっと耳打ちしてきた。なんだろう? 誰もいないところにわざわざ呼び出すなんて。
今日は土曜日だから授業は半日だ。ほとんどの生徒は、お弁当持参で早々と部活に散っていく。ちょっぴりドキドキしながら、人気のない校舎の階段踊り場に向かった。
「『これ渡して』って頼まれたから」
そこで待っていたのは、クラスメイトの黒崎だった。頼まれたって、誰に? 朔玖に? 返す言葉を探しているうちに、黒崎は、任務は果たしたと言わんばかりに、その場からいなくなってしまった。
可愛い猫の便箋に、いかにも中学生男子の筆跡らしい少し幼い文字。そこに綴られていたものは、学級委員の藤堂から恋文だった。
冷酷無慈悲とは、わたしみたいな人間のことをいうのだろう。意を決しての告白に、心はイチミリも動かなかった。それどころか、軽蔑の眼差しさえ向けている。どうせコイツは、作り上げたニセモノの月桜に恋してるだけ。ほんとのわたしなんて何も知らないくせに。
なんでわざわざ呼び出し係に朔玖を任命するの? 朔玖が声をかければ不審がらずに指定場所に来ると思ったから? 朔玖は藤堂の恋を応援してるって言いたいわけ? 朔玖にとって月桜は恋愛対象じゃないって言いたいわけ? 朔玖はこのことを知ってるの?
朔玖に藤堂の応援なんかしてほしくない。月桜が他の男の子と付き合ってもかまわないなんて思われたくない。
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