第3章-3 (#15) 一枚の年賀状[小説]34年の距離感 - 別離編 -
朔玖との距離は縮められないまま、冬休みを迎えていた。受験用の問題集に手をつけてみるも、まったく身が入らない。だって、正直、呑気で申し訳ないくらいに落ちる気はしない。
避けられてるのかな?
嫌われてるのかな?
朔玖の気持ちを確かめたい……
そうだ!
いいこと思いついた!
年賀状だ!
でも……朔玖はどう思うかな?
怖い。怖い。怖いけど、朔玖の年賀状がほしい。どうしてもほしい。
恋する女の子ってほんとバカだな。たったひとりからの年賀状がほしくて、カモフラージュにクラスメイト全員に差し出すことにした。
もし男子間で見せ合ったりしたら……念には念を入れて、朔玖だけ特別にしたいところをグッと抑えて、全員まったく同じ文面に。これで大丈夫。受験勉強をがんばるクラスメイトにエールを贈る、友だちおもいの月桜ちゃんのできあがりだ。
待ちに待った朔玖からの年賀状は、色鉛筆できれいに仕上げたウサギのイラストが描いてある、けっこう手のこんだ一枚だった。
A Happy New Yearは、縁取りのある抜き文字のロゴ。ウサギは、トムジェリのネコっぽくて、デフォルメのバランスが上手い。朔玖、やっぱりセンスあるんだな。
“逃げたくても逃げられない受験本番がやってきちゃうね。お互いガンバロウ!”
「逃げたくても」「やってきちゃう」何気ない文面から、朔玖の不安と、それを茶化して乗りきろうとする心情が垣間見れる。
呑気な月桜と違って、朔玖は闘ってるんだよね。朔玖は藤堂と同じ、市内でも有名な進学塾に通っていた。学年トップを争う藤堂レベルの塾なんて、考えただけでも恐ろしいよ。
避けられてるけど、嫌われてない。なんだろう? この不思議な感覚。嫌われてない。嫌われてなかった。たった一枚の年賀状でこんなにも安心できる。
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