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第1章-2 (#2) 生意気なんだよ[小説]34年の距離感 - 別離編 -

 長濱ながはまくんは、小学生のころからスーパースターみたいな男の子だった。かっこよくて、背が高くて、頭も良くて、スポーツもできて、リーダーシップもあって。どんな場面でも輝いてみえる。とにかく華があった。

 中学に入学すると、あっという間に長濱くんの噂は広まった。かっこいい1年生がいると、1年のフロアまでわざわざ彼を見に来る先輩女子もいたくらいだ。

月桜るなちゃん。長濱くんと付き合ってるの?」

「月桜ちゃん可愛いもん。彼の彼女だよね」

 えっ? 誰? 知らない女子から突然話しかけられる。それもひとりやふたりじゃない。わたしはあなたのこと知らないのに、どうしてあなたはわたしのこと知ってるの? 中学生になって、新しい出会いがたくさんあって、わたしはいろんな子と仲良くなりたいのに、警戒心だけが強くなっていく。

 たまたま学年が上だってだけで、あなたたちはそんなに偉いの? 中学という世界は、なんて理不尽なんだろう。先輩とすれ違えば、誰彼構わずいちいち頭を下げる暗黙の掟。くだらないルールに反することもなく、小さくなってその他大勢のひとりとしてヘコヘコしているはずなのに。どうして? ときどき先輩から睨まれる。どうして?

 先輩からの無言の圧力は、ついに無言ではなくなった。ある日、中学の友だちという女の子から電話がかかってきた。友だちって? 誰だろう?

「アンタさぁ。長濱と付き合ってるんだって?」

「付き合ってません」

「とぼけるんじゃねえよ。1年のくせに生意気なんだよ」

 付き合ってないから、ただ事実を答えているだけなのに。「はい」も「いいえ」もあったもんじゃない。一方的に言いたいことだけ言い放って切られてしまう。生意気だって偉そうに減らず口たたく前に、名前くらい名乗りなさいよ! そんな風に言い返す勇気なんてない。早く切って。早く終わって。

 嫌がらせの電話がかかってくるようになって、ようやく把握した。誰かが勝手に噂を流したために中傷されていることを。

 母親にも、父親にも、誰にも聞かれたくない。知られたくない。心配かけたくない。お願い。もうかけてこないで。

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