第1章-6 (#6) 月桜がいなかったら…[小説]34年の距離感 - 別離編 -
「長濱くんを取らないで」
幸冬の気迫に押され、わたしはそこに立ち竦んだ。昼間でも薄暗い裏山は、もうすっかり夕闇に飲まれ、嫉妬に揺らめく幸冬の輪郭を一層際立たせている。塾の近くには、山際に建設中の病院に続く工事車両が通る砂利道があった。わたしは幸冬に、その砂利道を少し入ったところに呼び出されていた。
幸冬はポケットにカッターを忍ばせているかもしれない。頬を切られる映像が、まるで映画の予告のように、まぶたの裏に映し出される。幸冬に何かされるんじゃないか? 怖くて体が動かな