パリに着いた日のこと②

タクシーの運ちゃんはラオス出身の気さくな感じのおっちゃんで「どこから来たのか」、「どうしてフランスに来たのか」などよくある質問を投げかけてきた。これくらいであれば片言かもしれないが答えられた。朝の通勤ラッシュ時だったので窓ガラスを割られて取られないよう荷物は足元へ置いた。

私が音楽留学で来たと知った運転手は「歌は?歌は好き?僕は大好きでこんなことやってるんだよ!」とカラオケのアプリを起動し自分が今まで歌ってきた録音を聞かせてきた。多分ラオスのポップスで正直上手いのかなんなのかどうとも言えないような曲調だったがとりあえず「Wow!」だけ言い続けた。ワォゥしか言えなかった。

このままあと一時間ほど走り続けるのかと思うと暗澹たる気持ちになったが更なる悲劇が待っていた。

「日本の曲歌って!教えてよ!」

私は典型的な「Noと言えない日本人」である。基本的に(あぁとりあえずYesといってこの場をやり過ごせればいいや)と考えるたちだ。「音痴だから」とか「喉が痛いから」とか言って断りたい気持ちもあったが音痴なんて単語は知らないし今まで普通に喋って来たのに突然喉が痛いというのも気が引けた。結局私はYUIのGood bye daysを歌っていた。運ちゃんは「Oueeeiiiiii」とやたら喜んでいたが長時間のフライトで乾燥した喉で高音が出ず、壊れたヴァイオリンのような歌声だったかと思う。更に運ちゃんは「これ投稿していいか」と聞き、もう日本人に見つからなければいい、勝手にしろ、という気持ちでまたNoと言えないのであった。

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