パリに着いた日のこと③
車内に心地いいとは言えない歌声を響かせているうちにやっと私の住むアパルトマンに着いた。大家に11時に来いと言われていたがまだ9時前だったので家の通りにあるカフェに入った。大荷物の中、朝のカフェを愉しむおじさん達で賑わう中入って行くのは勇気がいったが雨の中外に立ち尽くしているわけにもいかない。ようやく座れて、一人になれてホッとした。
時間になりとうとう我が家へ向かう。11時に来るのかと思っていたら中から大家が出てきた。
この大家は日本人で、こちらに留学している友人の友人から紹介して貰った。日本で電話で話している時から、話し方が威圧的で会う前からあまり良い印象を持っていなかったが、この一日で更に猛スピードで好感度が下がることになる。
まず私が部屋に入ると見るからにお掃除中だった。アパートの契約期間は8月〜7月末までと聞いていたのに、前の住人が退去してからの一ヶ月ちょっとの間何をしていたんだろう??
そしてベッドがなかった。ソファーベッドとは聞いていたが、ただ広げられるだけで眠れそうな雰囲気ではなかった。
とりあえず大家は「Wi-Fi繋いでゆっくりしなさい」の言葉を繰り返し、シャワー室の掃除を続ける。時折私に話しかける時に泡の着いた手を洋服で直に拭っていてゾクっとした。予定だと今日一日で大家と共に銀行・保険・携帯電話の契約を済ますはずである。この女はいつまで泡だらけでいるつもりだろうか。
やっと掃除が終わったようで(たいして綺麗になってない)、état des lieux(備品検査)を行い、契約書を作成するので大家のマンションに連れて行かれた。なぜ作って来ていないのかまた疑問が沸いたが大人しく着いていった。途中クレープの屋台で「ご馳走してあげるわ!」といいチーズとハムのクレープを食べた。「美味しいですねー」というと「当たり前でしょ!ここはフランスよ!」と言われ何故かその時急に物凄く寂しいというか切ない気持ちになったのを覚えてる。「日本にだって素晴らしいものは沢山あるのに」というような気持ちに近かったかもしれない。