パリに着いた日のこと⑤
結局スマホなど買うには「分割で月額いくら」という支払いをしなくてはいけなく、そのためには銀行口座ないと無理だわ。と言われなんの収穫もなくSFRだかorangeだかを後にした。後から知ったが普通にデータ通信の契約なしでも本体単品で変えるがアナログな大家は知らなかったらしい。残念だ。
「社会保険は明日の午後に予約取れてるからね!大体◯€ぐらいだから用意しといてくださいね!」といわれ結局予定していたことは今日何も出来ないことを知り絶望する。そしてこの後また大家宅に戻って地下倉庫からマットレスを持ち出して私のアパルトマンに持ち帰ることになった。「このままじゃあなた眠れないじゃない!」と折りたたみソファを見ながら言い捨てられたがその言葉そのままお返ししたい。眠れないのになんでこの状態で今日迎え入れられた???
というわけでまた戻るはめになった。なんだか効率が悪い。非常に悪い。すごく苛々する。こんなんだったら片言でも全部自分でやった方が簡単に済むに違いない、と渡仏初日にして確信した。我ながら自分が頼もしい限りだ。
しかし災難は続く。携帯ショップから大家宅に戻ろうという時に大家娘から電話がかかってきた。フランス語なので完璧には聞き取れないが「Mais maman, qu'est-ce tu fais?(ちょっとママなにしてんの?!)」という言い方のニュアンスで大家が何か娘との約束をすっぽかしたのだと即座に察した。案の定病院に着いてやってあげねばならず、もう今が正に予約時間だそうだ。パニックの大家。「ここからそう遠くないはずだから」といいグッチャグチャの手帳から病院の住所を見つけ出し歩く。また逆方向に進み戻る。もううんざりである。私はもう帰りたい。
やっと病院に着いた。娘が「なんで私の病院の予約に顧客連れて来てんのよ」と失笑しながら聞いていたが私も問いたい。そして二人は診察室に入りなんとそこから出てくるまで一時間もかかったのだ。なぜ?実は難病かなにかか?難病の娘の病院の予約忘れとったんか?と謎は深まるばかりである。
やっと二人が出てきた。そこでやっと大家宅に向かい「タクシー呼んであげるから」と言われるも「あ、娘のスマホからじゃないと呼べないんだった(Uberのこと)」といい病院で別れた娘に再び連絡しタクシーを呼んでもらう。娘もこんな親でさぞかし気苦労が多いだろう、同情する。
そんな訳でこの日二度目のタクシーである。相変わらず雨が降り続き窓の外から見えるエッフェル塔も水滴で霞んでいる。
家の前に降ろされマットレスを担ぎやっと解放されるもつかの間、既に20時10分前で目の前のスーパーが閉まるギリギリに駆け込みとりあえずパンやハムやチーズを買う。
本当に疲れた。本来なら疲れないで良いだろうことに疲れさせられているから納得がいかない。頭に来る。明日も大家に会わなければいけないのが憂鬱だがせめて美味しいものでも食べてこの苛々を発散させよう。
パリに着いた日のこと・おわり・