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火花(又吉直樹)

「ひたむき」という言葉を思い出した。
こんなに何かに直向きになったことが自分にはあったかな。こんなに信じられるものに出会ったことがあったかな。
間違っていても、正しくても、自分の考えを疑わず曲げず。それでいて謙虚に、主張せず、ただ直向きに。

お笑いについての語りは、私には難しかった。だから、読み始めはよく分からなかった。やっぱり芥川賞は自分には無理かもと感じながら、それでも本を閉じず先へ、先へ。その先が知りたくて、気がつくと最後まで読んでしまった。
それは著者の筆力もあるけれど、どこにも愚痴が書かれていないからかもしれない。選んだ仕事が厳しくて自分が情けなくなっても、悪く言わないって本物だ。

ひたむきは、正直で生き苦しい。優しさが加わるから余計にせつない。そして時々可笑しくてフッと力が抜ける。花火で始まり花火で終わる。パッと咲いて瞬時に消える火花のような小説。

神谷さんにはモデルがいるのではと調べてみると、見つかった。そして、徳永君に又吉さんを重ねて読むと楽しかった。

普段なんとなく受賞作品は敬遠してしまう。
それでも『火花』を読んでないなあと本屋で見るたび気になっていた。遅ればせながら読み終えた今、何処かに忘れてきたものが何年も経って手元に戻ってきたような、そんな気持ちになっている。

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