わたしが出会った妖精たち その壱
わたしの住むこの街の不思議なところ
いくつかあるけど、ダントツは「個性的すぎるお爺さん」に遭遇しまくるところだ。
通りすがりにエッチなことを言ったり、恥ずかしいものを見せたりという、その類の変質者には会ったことはない。他の人は知らないけど、私にとっては至って平和な街である。
なんというか、とにかく変テコなのだ。それも一人じゃない。次から次へと現れる癖爺たち。
こんなしょっちゅう個性的なお爺さん(限定で)にみんな会うものなの?誰かに聞いてみたくなった。
☆其の一、パンダおじさん
ある寒い日、駅のホームでベンチに座っていた私。下を向いてお気に入りの毛皮がフサフサしたブーツ(これも癖あるけども)を眺めていると、ジャラジャラとした金属の音を響かせて誰かが近づいてきた。パンクロッカーか何かだろうとそのまま俯いたままの私の目の前で、その金属音はぴたりと止まった。え?と顔をあげると…
耳当て付きのニット帽にはパンダのぬいぐるみ、パンダのイラストが大きく書かれた原色のセーター、チェックのダボダボパンツにサスペンダー、そこにもパンダのぬいぐるみがいくつもぶら下がっている。とにかく、まだまだ書ききれないほどのパンダ。パンダパンダパンダ…のお爺さん。
チョビ髭を生やしたそのお爺さんは私を上からまっすぐ見下ろすと
「こんにちは!ぼく、パンダ!」
と、ニッコリ微笑んだ。正解がわからない。どうしたら良いかわからなくて、私は一瞬で「無」になった。かろうじて、あっそうなんですね、という風に会釈してまたすぐにうつむいた。
何とつまらない対応しか出来ないのだろうか。たくさんの人の中でひときわ異彩を放ちまくっているその自称「パンダ」から選ばれてしまった私は、モーレツな恥ずかしさで固まってしまった。まだまだ若く、ユーモアで返す瞬発力も皆無だったのだ。いや、歳を重ねた現在でもウィットに飛んだ対応なんてきっと出来ないだろうけれど。
パンダおじさん(その後、そう呼んでいる)は、ちょっとバツが悪そうな素振りで周りをキョロキョロすると、またジャラジャラと音を立てながら立ち去った。少し離れたご夫婦と目が合った彼は、「こんにちは!」と笑顔を向けたがきっちり無視された。一瞬寂しそうにも見えたが、すぐ気を取り直してゆっくり悠々とホームを歩いて行った。ご機嫌な表情で。
彼とはまた遭遇するのだけれど、それはまた後の話。
☆そのニ「花船長」へ続く
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