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ガリガリ君


猫パンチ食らいあやまる熱帯夜


初めてガリガリ君の存在を知ったのは、緩和ケア病棟で働き始めてしばらくしてのことでした。

申し送りでやたらと出てくるワード、それがガリガリ君でした。何それ?

緩和ケア病棟の前は別の病院の手術室で勤務していました。同じ看護の仕事でも、場所によって使う専門用語はガラリと変わります。

手術室に配属された時は、手術に使う器械の名前や医療材料なんかの名前を覚えるため、手作りの写真入りファイルを作りました。

暇さえあればそれらの名前や使用目的、使用方法などを覚えるため、ファイルを捲る日々でした。

医師は別に意地悪をしているつもりはないのでしょうが、正式名で呼ばないことも多々、そのため医師固有の俗称まで覚えました。

でも、やっと俗称を覚えたと思いきや、手術中、医師は無言で手を出すようになります。

必死で術野を覗き込み、次に医師が欲しいと思う器械をバシッ!と手に打ち付ける。正解なら「オッケー!」を頂きますが、間違っていた暁には、器械が弧を描いて飛びます。

お~い!ペアンもコッヘルも、どれもこれも高いんだし、不潔にしたら新しいヤツを出さないといけないでしょ!!!と、心のなかで叫ぶのです。

でも、そんな仕打ちに耐えて、器械の名称を覚えたと思った矢先に異動命令でした。

それならいっそのこと新天地もありかも、「来年度、緩和ケア病棟の立ち上げ」という新規スタッフ募集にメールをしました。

緩和ケア病棟がオープン。パンフレットにも出演させていただき、やらせのポーズで写ることになりました。

ところで、ガリガリ君。

なんとアイスの名前なんですね。食欲不振の人が多い緩和ケア病棟ですが、ガリガリ君のようなあっさり系のアイスを好む人が多く、「今日はガリガリ君をこんだけ食べました」と生真面目に申し送りをする看護師をガン見しました。

緊張感バシバシの手術室からのガリガリ君、ユルさに慣れるのに数ヵ月を要しました。

盛夏せいか、アイスクリーム売り場でガリガリ君を見かけると、懐かしくなります。

食べはしないんですけど。どっちかと言うと井村屋のあずきのアイスが好きです。

ただ、最期のとき、他人に食事を止められてひもじい思いはしたくありません。最期まで口から食べたいです。

もしかしたら、「ガリガリ君が食べたい」と周りの人をコンビニの走らせるかもしれないなあ。


「まだ夏かそろそろ季語も底をつき」