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懲りない奴ら
「夜勤はいつで?」
同僚看護師の白さん、彼女の受け持ちさんが聞いてくる。白さんとあたしは何となく気が合って、仲が良い。
仲が良いといっても、休みの日にいっしょに遊んだり飲んだりはしない。人生観も違うし仕事に対する価値観も違う。万年シングルのあたしとバツイチで子持ちの彼女。清い体のあたしと背中に刺青を背負った彼女。
でも、タッグを組んで仕事をしたら最強だ。
☆☆☆
「あたしと白さんの夜勤は明後日ですよ」
「じゃあ、旨いもんを食わしちゃるき、箸を持ってきいや~」
「やったぁ~!」
夜勤が始まった。真面目に仕事をする。夕食介助して、検温して、希望者のマッサージをして、寝る前に清拭をして、排泄介助して、その合間にお喋りして、くるくると独楽鼠のように仕事を済ませていく。
ふたりで勤務するとほとんどナースコールが鳴らない。怖くて鳴らさんのとちゃうん?という意見もあるが、鳴らす前に病室へ行っていることをそいつらは知らない。
21時。消灯時間。
緩和ケア病棟は全員個室なので、とりあえず廊下の電気は消すが、部屋の電気はいつまで点けていても問題ない。
「すんだかえ?」
箸を持った白さんが声をかけてくる。すでに電子カルテへの記載も終わっている。
「すんじゅうよ~」
ノック!ノック!
「おっ、来たかえ。これを焼いてきいや!」
美味しそうな干物だ。白さんがホールにあるオーブンで干物を焼きに行く。そのあいだ、あたしは彼の奥さんが用意したおにぎりやら煮しめなどの総菜が入ったタッパーを冷蔵庫から出す。
いい香りがしてきた。美味しく焼けた干物をパタパタと白さんが運んでくる。
もちろんアルコールはない。ただ、患者さんだけは病室内なら飲んでもオッケーだ。でも彼は下戸。お茶で乾杯!
静かにはしゃぐこと30分あまり。就寝準備を手伝って退室した。
☆☆☆
翌朝、看護部長に呼び出された。
下の階の病棟にまで干物の匂いが流れ着き、下の階で夜勤をしていた看護師の垂れ込みで発覚した。
あたしたちが看護部長に注意を受けて病棟に戻ると、すでに噂は病棟を駆けめぐり、もうひとりの共犯者が師長に謝っていた。
「次は匂いのせんもんを焼こう」
懲りない3人である。
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ありがたや今日も仕事だ走り蕎麦