mar-マール猫エッセイ(13)番外編・マールの独り言
1月6日はどうも苦手なハルさんです。
時計を見るたび、あと何時間したら病院から電話が来るなあ、父上さんの死亡を知らせる電話のきた朝の5時までのカウントダウンを始めてしまうそうです。
前日、仕事の打ち合わせをして、夕方、散歩がてら歩いて病院まで行ったハルさん。
「また、明日来るからね~」
父上さんに手を振って別れた夕方の6時半。何も知らないって、なんて幸せなことなんだろう。父上さんの命の砂時計の砂はあと僅かしか残ってなかったなんて、ちっとも知らなかった。
もし、知っていたら、あんなにあっさり帰ったりしなかったのに、そうハルさんが話していたことがありました。猫のあたしだって、父上さんとの別れなんて想定外でした。
そんなに父上さんに懐いた訳ではないけど、でも、気が向いたら抱っこもされたし、喉を鳴らしてやったこともあります。
何より、ハルさんとの間を取り持つ役目は、ちゃんと果たしましたよ。
夜中にナースコールして、「お茶漬けが食べたい」と言った父上さん。まだ夜中なので、明日にしましょうねと言われ、素直に頷いた父上さん。
もし、家にいたら食べたいものを食べれたのかしら。やっぱりハルさんに「何時と思うてんの!」と叱られていたのかしら。
お正月前に風邪をひいて、少しの間、用心のつもりで入院して、まさか死んじゃうなんて思ってみなかった。ただ、いつかは死ぬし、もし、自宅で亡くなっていたらどうする?と段取りと心積もりをしていたハルさん。
父上さんも母上さんも独りで死んでいった、誰に看取られることもなく、寝ているうちに病院のベッドで亡くなっていました。
大往生かもしれないけれど、ハルさんは自分との縁の薄さが寂しかったようです。
人は、生きてきたように死んでいく、と捉えているハルさんには、両親が自分に死に目を見せずに逝ったこと、家族みんなが最期までバラバラだったことが悲しかったようです。
でもね、ハルさんの父上さんも母上さんも、娘の悲しそうな、困った顔が見たくなくて、こっこり息を引き取ったんだとあたしは思います。
だって、あたしは箱の中で寝てる父上さんのお顔を見たけど「あれ?寝てますか~?」と声をかけたくらい穏やかでした。
看取りをしてくれる人がいる人は幸せだ、と思います。父上さんは娘のハルさんがいて、幸せだったと思います。
あたしたち猫は、死に目を見せないように、死期が近づいたら飼い主の元から離れるし、独りで死んでいきます。ううん、猫も人間も同じ、死ぬ時はやっぱり独りです。
独りで死んで、他の動物や鳥に食べられて、微生物に分解されて、自然に還ります。
一人暮らしをしていると、もし、死んでも、誰も見つけてくれなかったらどうしよう?と人間は心配になるみたいです。でも、明日、死ぬかもしれないし、心配してもなるようにしかならないのにねぇ。
今は元気に動けるハルさん、猫だけどあたしだっています。でも、あたしが先に死んだら寂しがるかしら。1日違いで死ねたらなあ。もちろん、あたしが先です。
1月6日、少しでもあたしの姿が見えないと、いつもより心配するハルさん。もしかして、父上さんがあたしを連れに来ると思っているのかしらねぇ。
まあ、前回、あたしが倉庫に閉じ込められて46時間も不在になったのは、母上さんが亡くなった日だったし、ナーバスになるのも分かるけど、強くなれよ!ハルさん。
to be continued