着膨れ

めっきり冷え込んで参りました。外を見ると霜が田畑に降りていて、朝日にキラキラしています。

猫のマールも鼻先で冷気を感じるのか、即、室内に戻ってきます。それでも、底冷えするような冷たさはないので、温暖化のせいかと勝手に思っています。

今日は、「着膨れ」を詠むことにしました。ただ、着膨れした自分のシルエットが好きではないし、寒くても見栄っ張りが邪魔して、ヒートテックを着て薄着なわたしです(笑)。


着膨れて歩けぬ犬を抱き歩く

(きぶくれて あるけぬいぬを だきあるく)

あるあるの光景です。どうして犬や猫に防寒着が必要かと思いますが、飼い主の愛情なんでしょうね。

そういえば、知人が話していました。老いた女性が犬の散歩が苦痛になり、手放したそうです。

それまでは老いた女性に合わせてヨタヨタと歩いていた犬、新たな飼い主は活動的だったので、スタスタと歩き、表情も若返っていたそうです。


着膨れて海豹の顔して昼寝かな

(きぶくれて とどのかおして ひるねかな)

これもあるあるです。昔、母の妹が里帰りをしては(我が家が実家でした)、海豹のようにゴロゴロしていました。

今でも、嫁ぎ先の義理の両親との同居生活は大変でしょうが、家に嫁ぐという認識の昔は更に大変だったのかしら。叔母を見ながら、結婚の「光と影」ではありませんが、我慢をすることで海豹に変身する結婚は避けたいと思いました。


着膨れの君のウエストそっと抱く

(きぶくれの きみのうえすと そっとだく)

着膨れしている人を見ると、そっとウエスト周りを確認したくなります。

着膨れとマスクが無くなってしまうと、素の自分を曝け出さなくてはなりません。来年の春までに、素の自分を磨きたいもんです。


着膨れの我の腹囲は小結よ

(きぶくれの われのふくいは こむすびよ)

これは決してわたしのことではない!と断言したいのですが、大関や横綱とまではいかなくても、小結あたりにはランクインした気がします。

「よ」と軽く言ってみました。


着膨れと粉黛の病身の妻

(きぶくれて ふんたいの びょうしんのつま)

粉黛は"ふんたい"と読みます。化粧をしているのですが、白粉と黛をとりあえず塗ったというような意味合いがあるようです。

緩和ケア病棟で働いていた時、受け持ち患者さんの彼女は、旦那さんが面会にくる予定の朝には、少しでもふっくら見えるように重ね着をして、お化粧をしていました。

妻の思いを知っている旦那さんは、「今日は綺麗やね~」と茶化しては、妻の「今日も!でしょう~」の返事を楽しんでいました。

ただ、「着膨れ」より「重ね着」の方がいい感じもします。でも、着膨れを外したほうがいい句になりそうです。

粉黛の病身の妻美しく

(ふんたいの びょうしんのつま うつくしく)


着膨れの父の背中の薄さかな

(きぶくれの ちちのせなかの うすさかな)

今は亡き父。足が悪くなって運動が減ると、筋肉量が減ってきました。熱を作れない彼は「寒い」が口癖となり、何枚も重ね着をしていました。

たくさん着ると動きが鈍くなりますし、転倒リスクも高くなります。ワークウエイで外で作業する人用の防寒着を買ってきて、薄手のコーデを目指しました。

軽くて暖かい防寒着を着た父、介助のために背中に腕を回すと、シュボボと縮こまって、薄くなった背中が触れました。


着膨れの安物買いの母よろり

(きぶくれの やすものがいの ははよろり)

最後に、滅多に詠まない母の句です。

安物買いが趣味の母は、ペラペラな服を幾重にも重ね着しては、よろけていました。

見栄っ張りのわたしは、もしも、外出先で、意識不明になって、病院に救急搬送をされた時のことを想像します。

救急外来で働いていた時、垢もつれの洋服の人もいれば、穴があいた洋服の人もいます。ウジが涌いていた人もいました。どんな状況であっても動じないのが医療従事者ですが、なかには残念な人もいます。

なので、外出をする時には、万が一のことを念頭に置いて、小綺麗な格好で出かけるよう心掛けています。

そういえば、父と同居を始めた時も、気づかれぬように、そろそろと肌着とか上着を買い替えていったもんでした。

ということは、お一人様のわたしは、よほど自分で心掛けておかないと、小綺麗をキープできないかもしれないなあ。

よっし。全身が映る鏡を磨いて、そこに映る自分を大切にしていこう。