「舞うイチゴ」#シロクマ文芸部
舞うイチゴ。
愛しい娘がスカートを翻してクルクルと舞うたびに、パンツの赤いイチゴ柄がクルクルと舞っている。
今年、保育園の年長さんになったひとり娘のいち子、彼女を妊娠中にイチゴしか口にできなかった妻が名付けた「いち子」という名を娘はとても気に入っている。
いつの間にか、我が家はイチゴだらけ。カーテンもクッションカバーも、カップの模様もイチゴばっかり。
狭い庭にも苺を植えて、家族みんなで世話をしてきたっけなあ。白い可憐な花が咲いて、小さな苺の実がついて、「甘くて、おおきな苺になあれ」と毎朝、声をかけるのが日課になっていたっけ。
こんな日が、ずっと続くと思っていたのに、どうして僕は病気になんかなったんだろう。
「娘にはちゃんと本当のことを伝えたい」
僕のワガママを妻は受け入れてくれて、あの夜、娘に話した。
苺みたいに目を真っ赤にした愛しいいち子、その真っ直ぐな瞳をみて、僕たち家族の間に嘘がない、最高の時間を与えてくれる神様に感謝した。
臆病だった僕の、背中をそっと押してくれた優しい妻、勇気をくれたかけがえのない娘、今度のお遊戯会が最期になるだろう。
もう、彼女がクルクルと踊る姿を見ることは出来ない。
僕の目に焼き付けるかのように、一生懸命にクルクル舞ういち子のイチゴ柄のパンツ。
「お~い、パンツがまる見えだよ~」
舞ういち子、舞うイチゴ。
小牧さん、お遊び企画、参加させて頂きますますね。