見出し画像

「私の日」#シロクマ文芸部


「私の日から始まる作文を書けって、もう、小鳥遊たかなし先生、作文のお題のネタ切れかしら」


国語の小鳥遊先生、とにかく作文が大好きな先生です。運悪く?それとも運良くかしら?1年のときから担任になった先生のせいで、どんだけ作文を書いたことか。

これまでも、『宇宙クジラ』『鼻から牛乳』『咳したらお母ちゃん』なんて、意味不明な言葉から始まる作文を、半ば強引に作らせてきた小鳥遊先生は、この学校でも伝説の先生です。

まあ、そのおかげで文章を書くこと、言葉と遊ぶことが好きになったし、大学は文学部を目指して、将来は俳人になるという夢も持つことができたし、とりあえず感謝。

最近は生成AIとかいう新たなライバルが出現したけど、やっぱり、人間の心、人間の魂を震わせる言葉を紡ぐことができるのは人間を置いていない、と思う。

やっとのことで、政府も企業や学校での生成AIの使用についての指針を出し始めたっけ。確か作文みたいなものはダメ、だったと思うけれど、クラスメートの大半がこっそり使い始めている。まあ、あたしはやんないけど。

今のところ、生成AIで作文を書いた連中は、提出する前に作文の中身をチェックしているようで、どうやら小鳥遊先生にはバレてないようだ。

どうやって違う作文を書かせているのかな?
他のクラスメートとダブらない作文をお願いします!とか、設定しているのかしら。

流行りものは苦手というか、自分にしか書けない文章にこだわるあたしは、クラスメートたちが生成AIにお任せで作文をすませ、町に繰り出していても気にもしません。図書館の隅っこ、お気に入りの席で言葉遊びです。


「よし!今回は、作文をみんなの前で読んでもらうことにしようか。すずめ以外、全員、前に出てきてください~」

えっ?すずめあたし以外って?何よ、それ~。何を始めるつもりなの、小鳥遊先生~

ばつが悪そうな表情のクラスメートたちが、お雛様の雛壇みたいに、ズラリと教壇に並びました。

「では、1.  2.  3.  はい!」

まるで指揮するみたいに小鳥遊先生が合図をすると、みんな一斉に作文を読み始めした。

「私の日、、、、」

見事にハモっている声、もう、おかしくて、おかしくて、あたしもクラスメートも小鳥遊先生も、みんなで大笑いの合唱でした。

それからと言うもの、みんな、自分の言葉で作文を書くことを誓いました。いや、誓わせられました。


文章、言葉って、自分の脳内の感性や思考を文字にすること。だから、何も感じてない、何も考えてなかったら、何も書けません。

作文のお題を出される都度、白紙の紙と向き合うクラスメートたちは、みごとに空っぽな自分に気づかされました。

一度きりの人生、生成AIなんかにパラサイトなんてゴメンだよ!あたしたちは夢や希望、未知への好奇心で自分たちをいっぱいにしていきました。

卒業を迎えたあたしたちは、両親やお世話になった先生たちへ、そして、大好きな小鳥遊先生への感謝の想いを、自分の言葉で、作文用紙いっぱいに書きました。

小鳥遊先生、ありがとう!

おわり



小牧さん、今回も参加させて頂きました。
とても楽しかったです。