生きづらいのは自分のせい =自己一致してあっけらかんと生きる=

「時間がないのよー!」

背後から彼女のお腹に両腕をまわして、行かせるもんか!と重心を下げて全体重をかける花留さん。

花留さんを引きずるようにして、泣きながら「時間がないのよー!」と、叫びながら前に進もうとする彼女。

視点を定め、一点を凝視した彼女のパワーは底なしで、花留さんを引きずってズルズルと前に進んでいく。

堪えきれなくなった花留さんは、とうとう、壁ぎわまで引きずられていった。

「早くしないと、時間がないのよーー!!」彼女は泣き叫んでいた。

・・・

「この生きづらさはどうにかせねば!」

直属上司である師長との人間関係が最悪で、好きな看護の仕事までもが嫌いになる。

すると、看護師をやっている自分まで嫌いになるし、自己肯定感も急降下だし、それでも上がってくるのは見栄と意地ばっかり。

どうにせねば!と考えていると(花留さんは、考えたいことがあると"脳に空白"をつくる)、空白に当てはまる答えが見つかる。

「コーチングかあ~」

田舎に住む花留さんの周りには、コーチングみたいな洒落たことをやる人はいない。

コーチングが何かはよく分からなかったが、その業界では、そこそこ有名らしいコーチを見つけた。

彼のYouTubeを見ると、コーチングは世界を平和にする!みたいなことを言っている。

じゃあ、私ひとりくらい、幸せにするなんて知れたこと!彼が幸せにしてくれる!と思い込んだでしまった。

まさに、不幸にある者は「依存」しやすい。勝手に相手を「依存させてくれるいい人」にしてしまったのだ。

・・・

当たり前のことだが、コーチングスクールはコーチングのスキルを学ぶ場であり、決して受講生を依存性にする場ではない。

朝から晩まで、体を張ってのスキル体得で、花留さんはもうヘロヘロだった。

依存傾向にあった花留さんは、誰かにすがりつきたいのに、誰もがすがらせてくれない。自分の軸がグラグラなので、誰かの軸に寄りかかりたいけど払いのけられる。

ストレスもたまる

救ってくれる筈だったコーチとは不仲だし、参加者はイケイケの前向きな人たちが多く、花留さんはひとり浮いていた。

そんな花留さんを気遣って、声をかけてくれたのが、「時間がない」と叫ぶ彼女だった。

その日は、二人一組でワークをした。

ここのスクールのワークはなかなかハード、体を張ってやるものが多かった。この日は、言葉にならない思い、心の奥底にあるような感情を引き出すようなものだった(と理解している)。

そんな思いや感情が、一番引き出されそうな体の部位をもう片方の人が引っ張る。それに抗って前に進もうとすることで、言葉にならない本当の気持ちに気づこうとする、そんなワークだった。

ただ、どうしても自分の本音を他人に教えたくない、たとえワークでも「できん!」。

そんな意固地で頑なだった花留さんは、このワークがどうしてもできなかった。それでも表面上はやらないといけないので、フリだけしていた。

まあ、こんな受講生がいたらワークはできないだろうし、雰囲気も最悪、協力できなくてゴメンと謝りたいが、今さらですね。

そんな扱いづらい花留さんと組んでワークをしてくれた彼女には感謝だし、真剣にやってくれたから花留さんの気持ちがほぐれ始めるきっかけとなった。

とにかく、ワークをやった。

・・・

花留さんは武道をやった経験があったので、丹田に力を入れて彼女が前に進むのを阻止。

まったく進めなくて彼女が苦笑するくらい、ガッシリと押さえ込んでいたが、突然、もの凄い力で引っ張られ始めた。

花留さんが彼女の感情のストッパーみたいな役目を果たしていたようだが、それに逆らうかのように全身に力を入れたことで、感情のリミッターが外れた。

「早くしないと、時間がないのよー!」

渾身の力を振り絞り、自分を引き留めてきたストッパーを引きちぎったような叫び声。

花留さんには意味不明だった。ただ、彼女の表情は何だかスッキリしたように見えた。

彼女は子どもが出来ないことを悩んでいたようで、ご主人や両親の思い、不妊治療をすることで諦めたり手放したりすること等など、いろんな決断を早くしないといけないという焦りがあったようだった。

「誰がそんなタイムリミットを決めたの?」

実は花留さんは、若いころに婦人科の病気をしていて、医師からは子どもはムリ!と言われていた。不妊治療もやらず、もし、妊娠をしたらその時はその時のこと、みたいに自然任せだった。

彼女が自分で作ったタイムリミットに縛られ苦しんでいるように見えた。

「自分はどうしたいの?」

・・・

彼女が子どもを諦めたかどうかは知らない。でも、Facebookにはダンスをしたり、演劇に取り組んでいる姿が投稿されていた。

不妊治療を選択しても、彼女が自分で決めて選択したならそれでいい。

自分に「どうしたいの?」と問い掛けてやる自分の本当の思いに寄り添って生きる。

自分の思い(自己)と行動が一致していたら、あんなに"あっけらかん"とした表情で生きられるんだと教えてもらった。

花留さんが"あっけらかん"とするには、まだまだ時間が掛かってしまったが、それでも、最近の自分は、能天気にあっけらかんだ。

これはこれで、いい感じ。


ちなみに、最初に書いた部分ですが、1人が腹部に両腕を回して相手を行かせないようにして、もう1人が進もうとする。これはコーチングとかでやるワークの一種です。自分の体の何処かにブレーキがあるとして、それが何処にあるのか?感じてみる。相手がそこにへばりついてブレーキになる。ブレーキ役を振りほどこうとして前に進む中で、自分の本音に気づく、みたいな。

もうひとつ、2人組の同じ体勢でやるワークです。前に進む人が、行こうとする目的地を明確にしていたら、もう1人が思い切り引っ張っていても進むことができる。でも、行こうとする目的地が定まってないと、何故か?力が発揮されず前に進めない。視点が定まることで、人は力を発揮できるようだ。是非試してくださいね!