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第28話:お湯が水より速く凍る?「ムペンバ効果」

 物理のお話を結構してきましたが、 ちょっと想像がつかない話が多いとの声を聞いたので今日は身近な「水」と「氷」のお話。 分野としては熱力学になります。

 ところでみなさん、「お湯」と「水」、冷凍庫に同時いれたらどっちが早く凍るとおもいますか? 答えは「お湯」です。「熱力学」を知っている諸兄からみると「え!」と驚く答えになりますね? でも、ある条件下でしか「証明」はされていませんが、お湯が早く凍るのは事実なのです。 今日はそんな「ムペンバ効果」についてお話していきます。

53度のお湯の方が先に凍る(マイナスの温度)になる例(Wikipediaより引用)

 「水」より「お湯」が早く凍る。この事実は古代から色々な人が指摘していました。 例えば、アリストテレス、フランシス・ベーコン、ルネ・デカルト等々。ではなぜこの現象を「ムベンバ効果」というのか、それはとある「アフリカ」の高校生に由来します。

 タンザニアに住むムベンバ少年は中学生のときに授業でアイスクリームを作っていて、 熱いアイスクリーム・ミックスが冷たいものより速く凍ることに気付きます。その後独学で研究を重ね、 高校時代の1969年物理学者のデニス・G・オズボーン氏と共著で、この現象に関する報告を『Physics Education』誌に発表しました。 そしてこの現象を学会が初めて「認知」したのが、この論文であったため「ムペンバ効果」と呼ばれるようになったのです。

 さて、この「ムペンバ効果」。家庭の冷蔵庫で実験しても「すぐにわかる」効果なのですが、 実は「科学的には」立証されておらず、理論的には不明な点が多いのです。 そして「純真で倫理的な熱力学信奉者」が、熱心に「ムペンバ効果」を否定するのは「再現性」と「標本」の定義が困難だからなのです。 特に「標本」の定義は、熱力学信奉者が「否定する」絶好の的になっているみたいですね。具体的には、

① 何をもって凍ったというかの定義が難しく、観測者によって「偏った」判断になるから正しいとは言い切れない

② 「水」と「お湯」の定義があいまい、何℃以上がお湯なのか?明確に定義をしないかぎり正しいとは言い切れない

 ま、一言でいえば「いちゃもん」でして、いちゃもんに対して「完璧に答えられていない」からというのが「ムペンバ効果」が物理的に認められない理由なのですが、 「物理」という学問で「自説」を通すためには、「すべてのいちゃもん」を説き伏せねばならないのです。 なかなか「難儀」なことなのですが、これは物理の世界、科学的手法の世界では大切なお話なのです。あのアインシュタインですら、当時証明できたのは、ノーベル賞の実績となった「光電効果」だけなのです。

 ただ、いくつもの論文で、お湯が水より速く凍る事例が記録されています。 例えば1995年、独ゲッティンゲンのマックス・プランク流体研究所に在籍していたアーウアバッハ氏は ムペンバ効果について研究を行ない、これが起こりうることを示す数本の論文を発表しています。 しかしこれらの事例は、再現可能なものではありませんでした。まさに「STAP 細胞はあります!」の世界だったのです。そう、科学的思考というのは再現性がすべてなのです。偶然は科学とはよばないのです。って、確率的な存在を論拠とする量子力学とは矛盾しそうな気がしますが、ま、そういうものなのです。

 ところが2010 年、「再現性の証明に成功」した猛者があらわれます。 ニューヨーク州立大学ビンガムトン校のブラウンリッジ氏は、ある特定条件下でこの現象が再現できることを証明したのです。 具体的には、

水の標本:摂氏25 度以下まで冷却した蒸留水
お湯の標本:摂氏約100 度まで加熱した水道水

 この条件下では、「必ず」お湯の方が早く凍るのです。って、本当はここに動画を貼ろうと思ったのですが、昔はBrownridge 氏自身の動画も公開されていたのですが、今探した限りでは見つかりませんでした。 ただ、2008年の「ためしてガッテン」でも放送されていましたのですが、それを貼る訳にはいかないですもんねw

 ということで、冒頭でいった「特定の条件」といったのは、まさにこのことだったのです。 実は、自分でやってみればすぐわかるのですが、「お湯」と「水」では「お湯」の方が早く凍るのです。 しかし「科学的に証明されている」のは「この条件」のみなのです。 迂遠なことと感じるかもしれませんが、「理論」、「実験」、「再現性」が担保されて初めて「科学」は進歩するものなのです。

 ちなみに、2020 年8 月5 日、ネイチャーで発表されたサイモンフレーザー大学の物理学者、 アビナッシュ・クマール氏とジョン・ベックホーファー氏の研究により、ムペンバ効果の条件の一部が解明されています。

 興味がある方は、下記のネイチャーの論文をみることをお勧めします。

Natureの表紙例(wikipediaより引用)

Kumar, Avinash; Bechhoefer, John (2020-08). “Exponentially faster cooling
in a colloidal system” . Nature 584 (7819): 64?68. doi:10.1038/s41586-020-
2560-x. ISSN 0028-0836

 ただ逆をいえば、このような「身近」な「ありふれた」ことさえもまともに説明ができない。 これが「現代物理」、「現代科学」の限界なんですよね。最近の人類は「科学」を過信しすぎなんです。人類の科学力なんて、所詮こんなもんなんですよw

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