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第59回:芥川龍之介-傷つきやすかったその才能-

 日本の近代作家の誰が一番好きですか?と私が問われたなら、迷わず答える作家。 それが「芥川龍之介」。夏目漱石の弟子にして超一流。特に芥川の心情描写は心を奪われるものがあります。 さて、今日はそんな芥川龍之介のお話です。


芥川龍之介

 芥川龍之介は、生真面目な性格で、人から受けた小さな恩でも大切にした人でした。 それは作品にも如実に現れていて、「羅生門」とか「蜘蛛の糸」とか「恩」を題材にする作品多いです。 たとえば「蜘蛛の糸」だと、お釈迦様が蜘蛛を一匹を助けた善行にして罪人のカンダタを助けようとしますよね? 実は、蜘蛛の糸には元ネタぽい話があります。興味がある人は「アングリマーラ」で調べてみると面白いですよ。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%A9

 そんな義理人情に厚い芥川、実は家庭には恵まれていませんでした。 芥川が一歳の時、母が狂死し養子に出されますが、芥川は養家への恩を一生忘れることはありませんでした。 それが証拠に、芥川は継家に死ぬまで仕送りをしていましたし、 大学生の時、愛した女性との婚姻を育ての親である叔母に反対されため結婚を諦めるほどでした。

 ただ、この「生真面目」で「義理人情に厚い」性格が少しずつを蝕んでいくのです。女性関係に関しては、意中の女性と結婚できないストレスから、既婚女性に手を出し「ストーカー」になってしまいますし、 その後、龍之介は別の女性と結婚するのですが、彼は昔の婚約者の事を忘れることができず妻を愛することができない状態でした。(蛇足ですが、似たような背景を持つ小説を芥川は書いています。秋という作品です)

 そんな芥川の心とは別に、子供は一人、また一人と増えていき、 妻に対する「愛する事もできない」という「心の負い目」が、生真面目な芥川の心を徐々に蝕んでいくのです。

 ある日、芥川に更なる不幸が襲い掛かります。 義兄弟が事故で早世(早く亡くなること)し、義兄弟の家族が芥川の家に大借金を抱えたままで身を寄せてきたのです。 この結果、芥川は、一家十五人を食わせて、かつ、養家に仕送りを続けていかなければならなくなったのです。

 こうして芥川の心は壊れ、お金の為に多作を強いられ、文章は乱文乱筆と成り果て、心のはけ口として「ストーカー」を再開するのです。 そして芥川は随筆で「なんとなくボンヤリとした不安がある」と書き残し、自らの命を断つのです。

 さて後世では、芥川は「ストーカー」だとか、 師匠の夏目漱石を愛してやまない狂人(ちなみに芥川は「吾輩は犬である」という小説も書いているほどです)だの面白おかしく書く人がいますが、 芥川は、太宰治みたいな例ではない気がしています。

 こういう言い方は、私が芥川ひいきであるからこその言い方かもしれませんが 「耐える人」であった芥川の心は、「環境」によって蝕まれ彼の人格を破壊してしまったのではないか? と思っています。 つまり、いくら優れた才能でも、「環境」によってあっけなく潰れてしまう事があるのだと思っています。

 さて、最後に、私が芥川のどこが好きなのかがわかるエピソードを紹介して筆をおきます。

 とある日谷崎潤一郎が、芥川の小説を「文芸的な、余りに文芸的な」と酷評したため、芥川と大喧嘩になります。 これだけではわかりにくいですが、平たくいえば谷崎は、芥川の小説は小説として面白くなく、心情描写のみが突出しているくだらない文章だ。 と言ったのです。

 実は、こういう人は現在にもいます。小説家たるもの、話の面白さで勝負すべきだという人。 でも、私が感じている小説の魅力って心情描写だと思っています。そんなに話の面白さを求めるのなら、動画でもドラマでもアニメでも見ておけばよくて、 文章だからこそ伝えることのできる「心情描写」こそ小説の神髄だと私は思うんですけどね。

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