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第60回:ロストテクノロジー:さびない鉄「ダマスカス鋼」

 皆様はダマスカス鋼という言葉を聞いたことはあるでしょうか?ゲームをする人は武器や金属の名前に使われているので見たことがあるかもしれません。 または、ナイフや刀剣にかかわり合いのある人は実物を見たことがあるかもしれませんね。 今日はロストテクノロジー、ダマスカス鋼について紹介します。


ダマスカス鋼の刀身(wikipediaより引用)

 ダマスカス鋼は、古代のインドで開発製造された金属です。 極めて古く希少な金属であるために詳しい年代の特定もあまりされておらず、少なくとも紀元前6年にはあったとされています。

 未だに正確な製造年代は特定されていない神秘的な金属で、当時、切れ味の良いナイフや刀剣の材料として用いられました。 また非常に硬さのある金属として工具等にも使われていたようです。

 ダマスカス鋼は神秘的な歴史以外にも目を惹かれる特徴があります。 それは金属の表面に現れる模様です。ダマスカス鋼の表面には作り方によって木目状の特徴的な模様が現れるのです。

 これはダマスカス鋼を作るときに出来る独特な紋様でダマスカス模様などと呼ばれていまして、これは、細かい鉄と炭素が帯状に織り成してつくられているものです。見ての通り、黒と灰色の織り成す模様はとても美しいですよね。

 そしてダマスカス鋼はその副次的な効果で「錆びることがない」のです。
ところで皆さんはインド・デリー市郊外の世界遺産クトゥブ・ミナール内にある「錆びない鉄柱」をご存知でしょうか?


錆びない鉄柱(wikipediaより引用)

 この錆びない鉄柱は「デリーの鉄柱」と呼ばれる鉄柱で、紀元前415 年に建てられたとされています。

 この屋外に立つ鉄柱は。作られてから現在まで2400 年の間も錆びておらず、その特徴からダマスカス鋼でできているのではないかと考えられています。では、なぜダマスカス鋼はさびないのでしょうか?

 ダマスカス鋼が錆に強い理由はその製法にあると言われています。 金属は、不純物の混ざらない単一の状態では錆びにくく、頑丈になるという特性があります。

 例えば純金が錆びないのは、構成している金属が単一であるためです。金は非鉄金属なので強度こそありませんが、錆びないという点では他の金属よりも遥かに優れています。

 ダマスカス鋼は鉄鉱石から作られる鉄の単一金属で錆びにくいため、現在でも十分通用する材料なのです。

 では、今分かっている範囲での、ダマスカス鋼の作り方を紹介しましょう。まずるつぼに鉄鉱石と木炭や木の葉を入れて炉に入れて加熱します。 炉から取り出して、るつぼを割るとダマスカス鋼の塊になります。このダマスカス鋼の塊を元にナイフや刀剣を作成します。

 このるつぼによって作られた金属は硬さがあり、切れ味のよい刀剣に加工されるのです。

 またダマスカス模様が出るためには鉄鉱石の中に不純物としてバナジウムが必要とされています。 ナイフや刀剣を鍛造して作る際に直線の彫り込みを入れるとはしご模様が出来て、丸く彫り込むとバラ模様が出来ると言われています。

 この紋様こそが「ダマスカス鋼」の最大の謎とされています。なぜなら「バナジウム」は不純物であるから「ダマスカス鋼」は錆びやすくなければいけないのです。でも、実際は錆びにくい。これっておかしいですよね?

 ということで、このように美しい模様を持ち、錆びないという特徴を持つダマスカス鋼ですが、現代においてダマスカス鋼の作り方は失われてしまっています。

 特に錆びないという部分は再現が困難で、現代の科学力では錆びな
い鉄を作ることができず、99.72%の純鉄でも50 年で錆びるのが現代の科学の限界です。

 つまり、ダマスカス鋼は現代のテクノロジーを超越した「古代のオーバーテクノロジー」にして「ロストテクノロジー」なのです。

 ちなみに、なぜダマスカス鋼が作れなくなったかというのには諸説ありますが、原因の一つにインド産のバナジウムを含んだ鉄鉱石が取れなくなったことが挙げられています。

 地域での特定産出物が無くなったことで作れなくなった伝統物などは数多くありますので、その一つになるとダマスカス鋼も考えられています。

 しかし、これほどまでに綺麗な金属がもう作れなくないというのは悲しいことですね。

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