かつおぶしの旅①【掌編】
「当然のことだが、わたしを削っていくと、段々とすり減りへっていくのだよ」
そうかつおぶしが言った。
「芳しい香りと共に、わたしはだんだんと細くなっていくんだ」
「かつおぶしさん、どうかしたんですか?」
彼の隣に座っていた猫が尋ねた。
「なんだか、声が弱気になっているようだけど?」
「猫のあんたも、わたしみたいに細くなっていけばわかるさね。わたしみたいに寿命を可視化できるようになったら、猫でも犬でもわたしの気持ちがわかるだろうね」
「そうか、それでも俺だって、老いは感じるよ」
猫は頭をかきながら、言い返す。
「老いというのは、ある日突然、感じるもんだろ。若い時には時間が永遠あるように感じていたはずだぜ」
かつおぶしの言葉に、猫はうなずいた。
「そうだな」
「おいおい!おいらは、あんたの気持ちが痛いほどわかるよ」
棚の上から、鉛筆が声を荒げた。
「おいらだってね、削られて生きるものだからね!」
「おお、鉛筆さんもそうだったね」
かつおぶしもちゃんと聞こえるように、声を張り上げた。
「それじゃあ、消しゴムさんだってそうだろうね?」
「・・・・あふぁdsjぁjs」
消しゴムが何かを答えようとしている声が聞こえが、その声は不明瞭で何をいっているのか聞こえなかった。
そこで鉛筆が仲介に入った。
「この距離だと、あんたらには聞こえないだろうね。消しゴムのやつ、だいぶ短くなってしまって、口がケースで塞がれてらあ。何々?使い切ってもらえたら本望、だいたいは無くされて朽ちていくのがオチだって?おいおい、なんでそんな悲しいことをいうんだよ」
そんな鉛筆の声が上から降ってきた。
「・・・猫さんよ」
かつおぶしは、隣の猫に静かに声をかけた。
「俺を海に連れてってくれよ」
猫は何も言わずに、かつおぶしを口にくわえて走り出した。
―――
こうして、猫とかつおぶしの旅がはじまった。
彼らの旅の結末を知るものは、今のところ誰もいない。
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