追伸、犬と再婚しました
結婚式の2週間前
夫が家を出て行った。
忘れもしない。シンガーソングライターの優里が、初めて生放送の歌番組に出演した日。
絶望だけが残った部屋の中で、彼の歌声が響いた。
よって、私は今でも「ドライフラワー」恐怖症。
結婚式はできなくなり、親戚に中止と離婚予定の知らせをした。部屋の荷物を実家に持ち帰り、着々と別れるための準備をしなければならない。
離婚というのは嫌な作業だと思った。
「別れて辛い」だけじゃない。今まで共有していたお金のことも協議しなければならない。
1番悲しいやり取りだったのは、私が
「話し合い、家の中じゃなくてどこか外でどうかな」と提案してしまった時。
小心者な自分は、突然キレて殴られたりするかもしれない、という不安が少しだけ頭をよぎったのだ。でも夫からは
「家の中にしよう。何もしないから」と言われた。夫も私がなぜその提案をしたのかすぐ察したようだった。
「あぁ、傷つけてしまった」そう思ったけど、自分自身既にボロボロだった。
ずっと、2人でセットだと思っていたのに。なぜこうなったのだろうか。
話し合いを何度もして、結局私達の関係は修復不能になった。私は実家へ戻った。
当時、私のメンタルはかなり危うかった。生きていく意味など見出せない、消えたいと毎日思っていたし、人と会話しようとすると動悸がしたり、寝る前に過呼吸になることもあった。
しかし、どうやら私は限界ではなかったらしい。
ふと、こう思った。
「死ぬか、動物を飼って共に生きていくしかない…」
今思うと、我ながら「なぜそうなる?」だ。
なんちゅー2択なのか。動物からしたら、たまったもんじゃない。
私は幼少期から長年動物がいる環境で育ってきたので、どれほど癒しの存在かは分かっていたし、常に「犬か猫飼いたいなぁ」とは思っていた。
それで、ずっと死んだように過ごしていた私はスクッと立ち上がり、ペットショップに向かった。
事前に店のインスタを見て、見てみたい子を見つけた。むくりと起き上がった生きる屍は、その子に向かって走り出す。
だが現実は、やはり想像と違うことが起きる。
店に入った瞬間、1匹の赤ちゃんが元気に飛び跳ねた。
その可愛すぎる姿を見て「ビビビ」と自分の中で聞こえた。
でも、冷静に。生き物を飼うのだから慎重に決めなくては。
店員さんに声をかけ、まず目当ての子を抱っこさせてもらった。とても大人しくて穏やかそうだ。
「かわいい…」
これだけでだいぶ癒された。
次に、ピョンピョン飛び跳ねたあの元気な子を抱っこしてみた。
…笑っている。誰からも愛されないと思っていた私に、この子は嬉しそうに抱っこされている。店に入った瞬間も、この子は全力で「こんにちは!」と言ってくれた。じんわりと涙が出た。
「この子を飼います」
ご縁としか言いようがない出会いだった。
その日、夜になったらお店の人が家まで犬を連れてきてくれることに。
私は離婚した時の財産分与のお金を犬の購入の代金につぎ込み、夜までにケージや餌など、あらゆるものを買った。
夜になり、小雨が降る中ついにお店の人がやってきた。
家に犬を迎え入れてこう言った。
「今日から私の相棒になるのよ。」
こうして、離婚した女と犬の生活は始まった。
続く…かもしれない。