日報 4月5日 当人が満足なら良いことだ
記入者:タラバミント
胸の中に住んでいるものを、
僕はたまに表に出してやる。
胸の中にいるやつらは、みんな湿っているんだ。
冷や汗かいてるやつ、寂しい思いをしてるやつ、
悲しみにくれてるやつ、痛みに耐えようとしてるやつ、
キザなやつ、過去をふりかえってるやつ、
物事を後回しにしてるやつ、そして、
好きな人やモノに思いを馳せてるやつ。
人間生活を営んでいれば、
はじめは一部分だった湿っぽさも、あっという間に胸全域に広がる。
まさに雨季。ジメジメパラダイスだ。
曇天が一ヶ月以上続いている空のように、胸が重たくなる。
そうなると生身の僕の身体も共鳴して、
動きがどんどん鈍くなってしまうんだ。
そういう訳で僕は時々、
胸の中に住んでいるものを表に出してやることにした。
独り言でもいし、
ビルの屋上や山のてっぺんで雄叫びをあげるんでもいい。
とにかく外の空気に触れさせて、陽の光を浴びさせて、
湿ったところをくまなく乾かしてやる。
やつらは普段湿っぽいくせに、陽の光が好きだ。
本当は太陽の下で遊んでいたいのに、
いつも湿っぽい方を選んでしまう。
陽の中で遊んでいる湿っぽいやつらを代表して、
“キザ”と“寂しい思い”が二人、僕に近づいてきて言った。
「あなたはいつも我らを乾かしてくれるが、
そんなに気を使わなくてもいいのです」
「我らは、自ら“湿っぽさ”を選んでいるのですから」
「そうなのです。湿っぽいところで湿っぽくしてることに、
我らはみんな、満足しているのですよ」
「必要なことだから、我らはあなたの胸の中に生まれるのです」
“キザ”と“寂しい思い”はそう言って、
仲間と一緒に胸の中の湿っぽい方へ戻っていった。
「寂しい」と思う時は、自分が“寂しい”を選んでいる。
キザな振る舞いをしている時は、“キザな振る舞い”が必要でしている。
必要なことだから胸の中に生まれ、行動に現れる。
そういうこと、なのかもしれない。
僕の身体は一個だが、
細胞レベルで支配などできない。
湿っぽい方が落ち着く時もあるだろうね。
胸の中の湿っぽい部分は、無理に変えないことにするよ。
自分で選んで、それに満足できるなら最高だ。
みんな、胸の中で好きにするといい。
当人たちが満足なら、良いことだ。
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