見出し画像

日報 2月13日 心のダイエット

記入者:タラバミント


にんじんをたくさんもらった。
頭がすっぽりおおえるくらいのボールに一杯。

「よし、今夜はこれでキンピラをつくろう」と思った。

たん、たん、たん、
たん、たん、たん、

と、にんじんを切った。

気がつくと僕は無心になっていて、
千切りのにんじんがボールにたまっていくことに快感を覚えていた。

山盛りのにんじんの千切り。



僕は去年の夏に、たった一日だけ、とある宿で働いた。
そこで、同じくらい大量のにんじんを千切りにした。

その時は千切り器を使った。

しゃ、しゃ、しゃ、
しゃ、しゃ、しゃ、

と、丸ごとにんじんをすっていった。

そのときすった千切りにんじんは、
すべてしりしりになった。

宿主がまず作り方を見せてくれ、
その後で「同じものを作ってみろ」と言われた。

僕は、ほどほどに手際よくやってのけた。

「味見すれば?」
と勧められ、さいばしでひとつかみ食べた。

その味は今でも舌が覚えている。
なんてうまさだろう!と、僕は黙って感激した。
白いご飯が茶碗一杯ほしくなった。



ボールに千切りのにんじんがたまっていく様子を見ると、
僕は決まってこの夏の日を思い出す。

ただ思い出すだけ。
だからと言ってしりしりを作りたくなるわけじゃない。

その時のにんじんの冷たさとか、すった時のにおいとか、
そういうものに心が反応していたってことを改めて感じるだけ。



嬉しかったり、心地よかった思い出は、
何度思い出しても飽きずにすっかり受容できる。

昔の嫌な記憶や出来事なんかも、時間がかかってもいいから、
その当時の心の動きを改めて感じとれれば、きれいに消化できるのだろうか。

嫌だった時に自分が感じた悲しさとか、苦しみの正体とか、
どういうものに心が反応していたかってことを改めて感じるだけ。

それだけで、ちょっとは心のダイエットになりそうだ。

自分の心のキャパなんてわからないけどさ、
僕は人生のふんばり時だけふんばるので精一杯。



今日のキンピラは超ピリ辛に仕上がった。
もりもり食べ、茶碗のご飯も進んだ。
そろそろ、夏ぶりにしりしりでも作ろうかな。




いいなと思ったら応援しよう!