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003-offline

【2010年8月某日 夜】
 品川シーサイドMM小学校。夏が訪れるとそこは盆踊り会場になる。
 最寄の品川シーサイド駅は大型ショッピングモールがあるわりに、最近では昼夜を問わずあまり他のユーザーに遭遇することがない。
 メタバースの発展にともなって、住人たちの生活圏もうまい具合にばらけているためであろうか。うわさされるように登録者数も同時接続者数もいまいち伸びていないのが本当であれば、それも拍車をかけているのだろう。
 しかしやはり盆踊り期間中は駅前からちらほら人通りが見られる。
 MM小学校の校庭にはやぐらが組まれ、たくさんの提灯が発する明かりが周囲を照らしていた。
 おそらくすこし離れたこの辺りにも盆踊りの音楽は聞こえているのだろうけれど、深夜プレイの多い私のプレイスタイルは基本ミュートだ。
 今夜は友人に呼び出され、この会場まで足を運んだ。彼はいわゆるリアフレで、10代からの友人だった。彼とは20代始めまでは毎日のように遊びまわっていた仲だ。
 しかし地元を離れた私の仕事が充実しはじめると職場仲間との時間が増え、また私が結婚をしたこともあって年に一度会うか会わないかになってしまっていた。
 やがて彼にもパートナーができるとますます疎遠になり、しばしばSkypeで連絡は取り合ってはいたものの、もう3年以上オフラインでは会っていない。
 先日その友人が“meet-me”を知っているかと話題を振ってきた。
“meet-me”通称MMは、2008年4月から正式サービスが開始された純国産メタバースで、地図データを基に正確な東京23区を再現した3D空間だ。とりあえず地面だけは。
 私が正式リリースとともに住人となっていたことを伝えると、彼は初夏から始めたばかりということで、先週あたりから何度か中で会うようになっていた。
 今日の待ち合わせの場所は盆踊り会場の朝礼台だ。
 朝礼台の上では数体のマイキャラと呼ばれる3Dアバターが楽しげに全身でリズムをとっていた。その中に一回り大きなラッコの着ぐるみがいる。
 朝礼台の周りにも同じようにリズムをとる人だかりがあるが、おそらくみんな仲間なのだろう。友人の根城である青海の公園で見かけたキャラも何体かいる。
 私はMM歴2年になる“ぼっちプレイヤー”。かたや最近プレイを始めたばかりの彼は“青海公園クラブ”という大きなコミュニティのオーナーで、彼の周りには常に数名のコアメンバーの姿があった。
 彼はリアルでもコミュニケーション術に長けていたが、それはこのメタバースでもいかんなく発揮されているようだった。
 私は朝礼台の横まで近づき、チャットを飛ばした。
「ハイドくん、ヘリちゃ ばんちゃ」

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