052-online MM-Farm
【2011年6月10日19時 MMファーム前】
あれからわたしもすこしは積極性を持とうとこころがけていた。
まずは会話。会話大事。
とはいえわたしから提供できるトピックなんてたかが知れているし、そもそも深夜接続の多いわたしはフレとの接触が少ない。
だから日常の他愛のないことをなんでも日記にして、なるべく毎日話題を提供するようにしていた。
松乃さんは、リアクションに困るような薄い内容の日記にも律儀にコメントをくれた。
そんな折、松乃さんからひさびさのお誘いがあって、今日はふたりでお出かけ。
それでもこうして会うのはなんと20日ぶりだから、気は抜けない。
ふたりで砦倉庫と遺跡を消化して、最近興味を引いたスポットを散策したあとに抽選所巡りをして、最後に市場前駅近くのMMファームまでやってきていた。
市場前駅近くの牧草地、と言ってもMM特有の更地と見た目は同じ。芝生と見れば芝生、草原と見れば草原の、ただ緑のだだっぴろい空き地。
そこにぽつんと、さほど大きくもない牛舎があって、乳牛が何頭か柵の内側で草を食んでいる。
たしか購入した乳牛を預けて飼えるのかな? わたしたちは牛を飼わないから牛舎には用はないけれど、瓶牛乳1本で一日一回チャレンジできる抽選所でもある。
さっき代々木公園で野生の乳牛から分けてもらってきたお乳で抽選を済ませてから、ふたりで牛舎を背にして座って晴海運河を眺めていた。
「松乃さん、ゲームイベントは初?」
先日告知された松乃さん主催のプライベートイベントは鬼ごっこということだけど、わたしのイベントのようにセルフ参加のソロチャレンジと違って、マルチプレイのうえ進行が必要なイベントは大変だと思う。
前者はわたしのようにコミュニケーション能力の低い者でも開催できるけれど、後者はそうはいかないから。
「だね。誕生会とかツアー系はあるけど」
「なにかあれば手伝うよー」
「ありがと^^ まあ楽しんでいただけたらそれでw」
「差し出がましいかもしれないけど、よかったら景品でパンツドレス提供させてくれるかな? 1着だけどw」
前回採用のフード付きベストのときは手元に残すという考えがまったくなくて、店のディスプレイ用にも足らなくなってしまい、仲見世のトレボで数十万ココアで買うというアホみたいなことをしてしまった。
今回は着る用と保管用、ディスプレイ用をしっかり確保したうえで、まだちょっとだけ余裕があるのだ。
「マジで@@ こりはすごいことだ! でもいいの? 私もうもらっちゃってるのに」
「ぜんぜん^^ それ松乃さんにあげたやつだし。これはイベント用。すこしでも役に立てれば」
「わーい ありがとー」
「いま持てる?」
「もてるー」
荷物に空きがあるということだったので、その場で渡すことにしたのだけれど、トレード中、松乃さんからわたしに小さな花束とカギがポストされた。
『ようりさんココアはぜったいに受け取らないからw』
松乃さんは機先を制するように言った。そして抜かりなくもうひとこと添えてくる。『あー わかってるよー これもいらないって言うでしょw でもこれ受け取ってくれないと、私もさすがに受け取れないからねー^^』
わたしは『ありがと^^;』と返すしかない。
花束とは、さすがは松乃さん。
そもそもこういうところが松乃さんの気配りができているところだと思う。
ただの個人的な印象というか想像なのだけれど、荷物に余裕のあるときは花束を常にいくつか忍ばせているんじゃないかな。まさにこういうときのために。
ありがとうのかたち。気持ちが伝わって、かつ相手の負担にならない絶妙なチョイス。
人間関係を円滑にするような抜かりない気遣いや、やさしさを感じる。
トレードが終わり、ふたたび芝生に肩を並べて座ると、しばし会話が途切れた。
ふと、タンポポ畑の日を思い出す。
「もうだいじょうぶだからねー^^」
松乃さんが言った。
まさにわたしの胸の内を見透かしたようなタイミングだったけれど、きっとそうではない。いつか言おうと決めていたことを切り出すタイミングだ。
「うん?」
「ごめんねーいろいろ心配かけたみたいで。気遣ってくれてありがとねー」
松乃さんはそう言って謝るけれど、彼女のインが減ったことについて言っているのなら、それについて謝るべきはきっとわたしだ。
わたしは彼女が悩んでいたかもしれない“あのとき”に声すらかけられなかった。
自分が、どう思われているか怖かったから。
こわくて声をかけられなかったんだよ。
なぐさめたり、はげましたりしたときに『相手が私じゃなくても、そんなふうに気遣う?』って言われたら、わたしはきっと動揺する。『私のやっていることも、”あの人たち”と同じでしょせん他人事だって思っているんじゃない?』そう突き付けられたのも同じだから。
いまさらながら”あの人たち”の善意に水を差したのは軽率だったと反省している。
そのうえで松乃さんに対しては誓ってそんなふうに思っていないし、それは身内びいきでもないって言いきれるけれど……
そう思われても仕方がない。
でもそんなふうに思われたのなら、わたしはきっと立ち直れないってわかっていたから。
人を傷つけたかもしれないくせに、その事実を知ることで自分が傷ついてしまう身勝手がこわくて、声をかけられなかったんだ。
そんなとき『ようりさんのおかげ』なんて言われて一気に舞い上がって。安心して、すっかり元通りだと思ってしまっていた。
だからあのあとそれほど松乃さんがインする回数増えていなかったことにも気づけなかったんだ。
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