048-online
【2011年5月18日 タンポポ畑】
わたしのMM活動時間帯はだいたい深夜か早朝だ。
まれに夜も深くない時間帯にインできることもあるから、約束があればそれに合わせられる場合もあるけれど基本はそう。
だから実はフレとの交流も、日記でのコメントや公式SNSメッセージのやり取りが中心になる。
なかでも松乃さんはいつもわたしを気にかけてくれていて、面白そうなことをみつけてはわたしにお誘いのメッセージをくれる。
消極的で受動的なわたしから遊びを提案できることはめったにないので、わたしのMM生活が充実して楽しいのは、全部が手を引いて連れまわしてくれる松乃さんのおかげだ。
きょうは『きれいなタンポポ畑あるんだ。見にいかない?』ってひさしぶりにメッセがとどいたから、日時を約束して会っていた。
松乃さんが連れてきてくれたのは、レンガ塀に囲まれた誰かの家のお庭。
井戸の手押しポンプと井桁に組まれた薪のほかは、丸太のベンチが置いてあるだけ。あとは、地面を覆い尽くすタンポポ。白い綿毛が画面いっぱいに舞ってきれい。
どちらからともなくベンチに腰かけて、宙を舞う綿毛を見つめる。そしてわたしはいつまでたっても始まらない会話に気づき、沈黙の支配を知る。
どうしたんだろう。
松乃さんの様子がすこしおかしい。
松乃さんの頭の上のフキダシは、ときどきオレンジ色に点灯するけれど、またブルーに戻る。
これまでもふたりでいるからといってしゃべりどおしというわけではなかったし、いまも嫌な沈黙ではない。
そもそもわたしの気にしすぎかもしれない。
でも悪い方へ考えてしまう……
わたしがいつも受け身だから、誰かが話題を振ってくれたり、誘ってくれたりしない限りいとも簡単に交流は途切れる。
そして悪いことにわたしのプレイスタイルは常にミュート。MM内でTELがあっても気づかない。
そもそもフレとの交流が少ないので、そういった機能には無頓着だから留守電を確認することもない。
もしかして知らずに不愉快な思いをさせてしまったことがあって、誤解させてしまっているのかもしれない。
「きれいだねー」
「うんうん」
わたしがしゃべるとすぐに相槌が返ってくるから、寝落ちしているわけでもなく画面はちゃんと見ているのだろう。わたしと同じに。
たぶん、松乃さんのPCの画面にも別のウィンドウがいくつか開いていて、ほかの作業の合間にMMの画面を窺っているような感じかもしれない。
そんなふうにして、きっとお互いが身近に相手を感じながら流れる時を楽しんでいる。
確かめるわけでもないけれど、いつもそうだ。
いつもそうだった。
いつもそうだから、きっといまもそう。
そのはずなのだけれど、きょうはなにかちがう。
なんとなくタンポポの綿毛の空に遊ぶを見ながら、ぽつりぽつりと言葉を交わしはじめた。
「ようりさん、大きなプール入ったことある?」
「プールサイドつきのやつ?」
「そそ」
「ないない」
「自由に入れるようにしてくれている家みつけたんだ(*´ω`*)」
「へえ」
「いく?」
「いくいくw」
「水着ある?」
「着てるwww」
上にひびかないコーデでスカートが短いときは、下着がわりに常に水着を着ている。女性キャラのたしなみと思ってそうしているのは、わりとわたしだけではないはずだ。
「www じゃ、いまから行こう^^」
思えば、sophiaさんのお店にお邪魔してから今日まで2週間。松乃さんからは日記に短いコメントをもらったくらいで、メッセージもなく会うこともなかった。
…… ……。
バカだ。
なにが“ひさしぶりにメッセがとどいた”だ。
それだけあいだが空いたからこそ、それが無意識にひっかかっていたからこそ、いまさら不安になってるんじゃない。
だからいつものことにすぎない沈黙も、悪い方に勘繰ってしまってるんだ。
以前松乃さんのインが減ったとき、わたしあれだけ気に病んでいたのに……
『あれがなかったら、私まだ引きこもっていたよきっと。いろいろありがとうね、ようりさん』
きっとあのとき、わたしはなにかしてあげられた気になっていたんだ。
勝手に完全復帰してくれたと思い込んでた。
だとしたら、わたしはバカだ。
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