073-online
【2011年10月26日が終わるころ】
せっかく開いた窓が閉じてしまう。
松乃さんが開いてくれたMMの窓が――
わたしは松乃さんのお店に車で向かおうとしたけれど、駐車場リストに松乃さんのお店がなくなっている。
家を撤去したか、少なくとも駐車場は撤去されているということ。
恐怖にも似た絶望に駆り立てられながら、バスと電車を使ってお店に向かった。
でも、でもまだ間に合う。
フレンドリストにはグレーアウトしてはいるものの松乃さんのアイコンがある。まだ退会はしていない。
最寄りのバス停から走って松乃さんのお店に近づくにつれ、わたしを駆り立てていたものが胸の中で膨張して喉につかえた。
見えない。
松乃さんのお店が見えない!
いつもならこの辺りから見えてくるはずなのに!
ツタの絡まるレンガの塀も!
大きな藤の木も!
それでも走り、見慣れていたはずの見慣れない風景の前で足を止めると、わたしは呆然と立ち尽くした。
いつものお隣さんの家に挟まれた……空き地。
お店……もうないじゃん……
たしかにいまのわたしは松乃さんがいなくても人の輪に入っていけるようにはなっていた。
sophiaさんのお店や四季舞さんのお店でも、緊張しながらでもそれなりに雰囲気に打ち解けて楽しめるくらいにはなっていたし、公園クラブやミニイベントで交流の始まった人たちと誘い合わせて遊びに行くこともあった。
ゆめなさんのように家にふらりと遊びにきてくれるフレも何人かできたし、そんなフレたちと誰かのお店で鉢合わせ、自然と輪に馴染むこともできるようになっていた。
それでも、それでも松乃さんの存在はわたしにとって大きい。
だってほとんどみんな、松乃さんが窓を開いてくれたから出会えたひとたち……
始まったお付き合い……
行けた場所……
うまく言えないけれど、松乃さんがいなくてもようりはMMで暮らし続けるだろう。
でも……
公式イベントに参加したりフレンドに会いに行くことは少なくなるかもしれない。
お洋服のデザインもきっと続ける。
でも……
一番に着てもらいたいひとがいない。
一番に喜んでもらいたいひとがいない。
わたしは松乃さんに一番に着てもらいたいんだ。
わたしは松乃さんに一番に喜んでもらいたいんだ。
そして一緒にいろいろな体験をしたい。
思い出を積み重ねたい。
‟嬉しくなるちょっとした些細なこと”をふたりでたくさん見つけたい。
松乃さんとだよ……?
まだ知らない、見たこともない‟水無月”さんとじゃないんだよ……
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