049-monologue
【2018年1月31日 大井ふ頭移動中】
いまでは笑い話だけれど、あのときは後悔と不安で最悪だった。
もし松乃さんが「ひきこもっていた」かもしれなかった原因をまだ引きずっていていとしたら。
そしてもし、そんなときに復帰のきっかけになった相手から、何度TELしても出ないなんて仕打ちを受けたのだとしたら。
そりゃそんな相手にメッセージなんて送りづらいってなる。
たまたまそうではなかったというだけで、わたしのコミュ力不足はいつだってそういう危険をはらんでいるということだ。
松乃さんからしたら、突然わたしに距離を置かれたと思うだろう。
あのときそこに思い至って、一気に狼狽したんだ。
だからとにかく強烈に不安だったことは覚えているけれど、それ以外の記憶はあいまい。
タンポポ畑の日、だれかの邸宅に忍び込んで大型プールでこっそり遊ばせてもらったときも、そのあとに次から次へといろんな場所に連れて行ってくれたときも。
プールの後はたしか大きな藤の木のあるお庭だった。
それからセンスの良いユーザーさんたちの家を何軒も見に行ったと思う。
松乃さんは素敵な家を見つけると“内見”をして、この日に限らずそうやって見つけたセンス良く作り込まれた家をわたしに案内してくれていた。
わたし自身が忘れてしまうほど以前にちょこっと口にしたことを覚えていてくれて、『まえにようりさん実物見たいって言ってたの、これのことじゃない?』って、わたしが探していたアイテムが置いてある家に連れて行ってくれたことも一度や二度じゃない。
きっと普段からわたしが言うことを気にかけてくれていたんだろうな。
あの日のふたりの“お宅訪問”がわたしの記憶どおりなら、SSの何枚かでも残っていそうなものだけど……
1枚もないから、そのときのわたしにはSSを撮る心のゆとりすらなかったみたい。
それから雰囲気の良い“町”にも案内された、はず。
“桜並木”や“昭和の町並み”“温泉街”みたいなテーマを決めて、コミュニティーのみんなで作り上げる“ユーザータウン”って言うらしい。
そうやってふたりで散歩している最中も、なんというか松乃さんに“距離”を探られているようで不安だったんだよ。
『あのとき私を引き留めたのは、ただのおためごかしだったのか』そう見限られてしまったのだとしたら、今度こそ本当にMMから消えていなくなってしまうのではないかと、不安で不安で気もそぞろだった。
それでも松乃さんはきっと去り際も優しいだろうから、こうして自分の知っている感動スポットを残らずわたしに遺そうとしているのかも、なんて自分に都合の良いように考えてた。
“駆け足で二人の思い出の場所を作ってくれている”なんて思うのはちょっとずうずうしいかもしれないけれど、松乃さん引退しようとしているのかもって。
いま思い出してみればそうとう滑稽な思考回路なのだけど、当時は深刻。
もしそうなら、こんどはわたしのせいだって。
その日は夜に“景虎”さんって方のバーに行く約束をして一旦別れたんだ。
ログアウトしてから約束の時間にログインするまで、もういろいろ考えを巡らせすぎて頭がいっぱいだったから、そのバーでの出来事もまったく覚えていない。
いまSSのフォルダを確認してみると、5月18日のSSはタンポポ畑とプールの1枚づつだけ。
SNSを確認すると、翌日5月19日12:18 に、遅い朝の挨拶と共に「またあそぼう」というメッセージが松乃さんから届いている。
「楽しい時間てあっという間だねー」って。
「面白そうなネタを仕込んでおきます」って。
それでも本当にその日がもう一度くるのか不安だったのを覚えている。
つぎに松乃さんがSSに収まるのは、それから約20日後。
松乃さんから突然のイベント紹介メッセージが届いた数日後のものだった。
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